365日毎朝、空の表情をSNSで語りかけた歌人の初めての詩集

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朝、空が見えます

『朝、空が見えます』

著者
東 直子 [著]
出版社
ナナロク社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784867320242
発売日
2023/12/27
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

365日毎朝、空の表情をSNSで語りかけた歌人の初めての詩集

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 一ページに短い文章が三つずつ、行儀よくならんでいる。どれも空について書かれており、三つでひとつかと思ったが、一行一行が別の空を描写していることに気づく。毎朝、その日の空模様を言葉にしてTwitter(現在はX)に投稿した一年分の文章をまとめた本なのだ。

 空はだれもが平等に見ることができるものだ。でも、見たものを意識しているかどうかは疑わしい。いまも今朝の空を思い出そうとしたが、憶えているのは曇っていたということだけ。どんな感じに曇っていて、その状態に心がどう反応したかは思い浮かばない。

 日常生活では、朝の空はその日の振舞いを決める目安になることが多い。洗濯物は外に干すべきか、外出のときに雨傘を持って出ようか、昨日より着込んだほうが無難かなど、その日の過ごし方を空の様子を見ながら判断している。

 ところが、著者の空との触れ合いはそうではない。生活を横に置いて空にむかって体を開くのに近い。空と自分だけで、ほかにだれもいない真空状態。ひとりを実感せずにいられないすがすがしくも緊張感をともなった時間を、慈しみつつ綴っている。

 思えば朝、目を開けた瞬間はだれもがひとりである。世界にたったひとりで対面する一瞬をみんなが平等に持っているのだ。

「今まで言えなかったことを、今言っても、言わなくても、白いままの空なのだと思います」「この一つきりの地球のごく一部にふる雨の、ひえびえとした一瞬の雨粒が、見えます」「遠いところから名前を呼びあうのによさそうな、きれいな水色の空です」

 SNSの言葉は日記とちがい、むこうにだれかいるのを想定して書かれるものだ。これらの言葉もおなじである。毎朝、見えない読者に語りかけた三百六十五個の空の景色が詰まっている。

新潮社 週刊新潮
2024年2月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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