『「地域包括ケア」の落とし穴 介護の大転換が自治体を破綻に追い込む』濱田孝一著

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「地域包括ケア」の落とし穴

『「地域包括ケア」の落とし穴』

著者
濱田 孝一 [著]
出版社
花伝社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784763420954
発売日
2023/12/18
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『「地域包括ケア」の落とし穴 介護の大転換が自治体を破綻に追い込む』濱田孝一著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

医療介護維持へ改革案

 医療介護問題の一段の深刻化は、現在800万人と巨大な人口の団塊世代が全員85歳以上となる2035年から始まる。85歳以上になると6割が要支援以上、4人に1人が重度要介護者になるからだ。そして40年代から70年代まで85歳以上の人口が20年比で6割余り多い1000万人以上で推移し、生産年齢人口は激減するという極めて厳しい状況が続く。この厳しい見通しの中、医療や介護を支える主体は25年をめどとして「地域包括ケア」の名の下に国から地方自治体に移行する。この制度はバラバラだった医療や介護などのサービスを中学校区規模の地域の状況に応じてきめ細かくかつ包括的に行う目的で国が旗を振ってきたものだ。

 理念通りに機能すれば全国一律より優れた仕組となろう。だがこの主体の変更は居住する自治体によって住民の負担がさらに増え、受けるサービスが低下する可能性を生じさせると著者は警告する。この制度は自治体ごとの経済状況、財政力や人材確保、運営などのマネージ能力に大きく依存する一方で制度改革や予算分配の権限は依然国が握っているからだ。有効な手を打たないと財政破綻や人材確保難で医療介護の運営に大きな支障をきたすなどの危機的事態が生ずる自治体が増加しかねない。

 かといって、青天井の税、社会保険料の負担増や、介護離職の増加を増やすようなサービスの大幅削減は経済の衰退を招く。著者はこれらの事態を防ぐには効率的な包括ケア体制構築に加え、医療介護費用の削減や負担の見直しが必要として制度、運用の改革を主張する。そして介護保険の被保険者を拡大する、介護保険の対象を重度要介護者に限定する等、多岐にわたる改革案を示す。これらについては賛否両論あろうが既に国が検討しているものもあるという。終末期医療など論議が起きそうな提言も含むが本書は例をみない高齢化社会に直面する日本の行く末について警鐘を鳴らす一冊だ。(花伝社、1980円)

読売新聞
2024年3月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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