『果鋭』
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果鋭(かえい) 黒川博行 著
[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)
◆元刑事コンビ毒吐く
黒川博行は、初期の警察小説「黒豆コンビ」シリーズ、現時点で六作を数える「疫病神」シリーズなど、個性的なコンビを生み出し続けてきた作家だ。新作『果鋭』は、『悪果』『繚乱(りょうらん)』と続いてきた堀内・伊達コンビのシリーズ第三作。二人は大阪府警の刑事だったが、悪事が発覚して職を失い、今は競売屋の調査員となっている。
今回、二人が関わるのはパチンコ業界。著者にはパチンコの釘師(くぎし)が主人公の『封印』という作品もあるが、現在のパチンコ業界には職人的な釘師の居場所などもはや存在しない。本書で描かれる業界の裏側、それは警察と暴力団が利権を貪(むさぼ)る魑魅魍魎(ちみもうりょう)の巣窟だ。
堀内と伊達のやり方は相変わらず無茶(むちゃ)の連続で、関係者の拉致、暴力団相手の喧嘩沙汰(けんかざた)などは朝飯前だが、元刑事らしく正攻法の訊(き)き込みも堂に入ったものである。とはいえ、警察の威光を背負っていた時と大きく異なるのは、しくじったら命の保証はないということ。堀内は前作で重傷を負ったが、今回は伊達も無傷では済まない。
毒を以(もっ)て毒を制すというが、このシリーズでは主人公たちもそれ以外の登場人物もまさに猛毒、ほぼ悪党しか出てこない。漫才さながらの軽快な掛け合いによってそんな猛毒コンビを魅力的に見せる著者の手腕が冴(さ)える一冊だ。
(幻冬舎・1944円)
<くろかわ・ひろゆき> 1949年生まれ。作家。著書『破門』『後妻業』など。
◆もう1冊
黒川博行著『疫病神』(新潮文庫)。建設コンサルタントの二宮とヤクザの桑原がコンビを組むシリーズの第一作。