【聞きたい。】燃え殻さん 『ボクたちはみんな大人になれなかった』

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ボクたちはみんな大人になれなかった

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

著者
燃え殻 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103510116
発売日
2017/06/30
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】燃え殻さん 『ボクたちはみんな大人になれなかった』

[レビュアー] 篠原知存(ライター)


燃え殻さん

 ■自分語りをしてほしい

 「人生にドラマチックなことなんて起きない。90年代から2000年代初めの『何もない』って言われてた時代に、何もない人間がほうり出されていた。停滞した空気があって、しらけムードで、雑な感じで生きてて…ただそんな中でも泣き笑いはあるでしょう」

 〈主人公のボクは43歳。ある日、フェイスブックで元彼女の名前を目にする。“小沢(加藤)かおり”。ダサいことを嫌っていた彼女が投稿した夫婦写真はダサかった。そして幸せそうだった。ボクは「自分よりも大切な存在だった」彼女との日々を回想し始める〉

 「深い悲しみとかすごい幸せとかは横目で見るもので、そんなに悲しくなかったし、そんなに楽しくもなかった。でもたしかに僕らはそこにいた。『中途半端だ』って言われそうですけど、けっこう多くの人がそうだったと思うんですよ」

 エクレア工場でのアルバイト。超長時間勤務のブラックな美術制作会社。小沢健二とインドを愛する彼女と現実逃避するように-。そんなエピソードの多くは実体験に基づくという。

 「『あんなこともあったなぁ』と思いついた順に書きました。会話などはそのままではなく、いろいろな人に受け入れられるように工夫したつもりです」

 短い文章をリズミカルに連ねていく。「一文一文を簡潔に、でもいろいろな意味が取れそうな言葉を選んで配列した」。読み手が自分の物語にしてくれるように気を配ったという。

 「SNSなんかで感想をみると、この小説はここが良かったとかではなくて、『これはこれとして俺の話なんだけどさ』…って自分語りをしてくれてる。それがすごくうれしい」

 デビュー作だが刊行直後に品切れ続出。3刷4万6千部とヒット中。「小説好きにほめてもらえるのもうれしいですが、年に2冊ぐらいしか小説を読まない人に、そのうちの1冊がこの本って言ってもらえたら最高ですね」(新潮社・1300円+税)

 篠原知存

  ◇

【プロフィル】燃え殻

 〈もえがら〉昭和48年、神奈川県生まれ。東京都内で働く会社員。ツイッターが人気を集め「140文字の文学者」と呼ばれる。筆名は好きな曲から。

産経新聞
2017年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク