【手帖】『ベラスケスのキリスト』が刊行

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 今年は日本とスペインの外交関係が樹立されて150周年。さらに、スペイン最古の大学であるサラマンカ大学創立800周年にあたる。これを記念してさまざまな文化事業が繰り広げられている。目玉は東京・上野公園の国立西洋美術館で開催中の「プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」だろう(5月27日まで。次いで神戸市の兵庫県立美術館で6月13日から10月14日まで開催)。

 サラマンカ大学の総長を務めた思想家・詩人、ミゲール・デ・ウナムーノ(1864~1936年)の哲学を読み解いた佐々木孝さんの『情熱の哲学 ウナムーノと「生」の闘い』を今年復刊した法政大学出版局は、新たにウナムーノの長編詩『ベラスケスのキリスト』(執行草舟監訳、安倍三崎訳、2700円+税)を刊行した。

 スペイン黄金時代を代表する画家、ディエゴ・ベラスケス(1599~1660年)の「十字架上のキリスト」に感応したウナムーノが言葉を紡いだこの長編詩は、ヨーロッパの古典的教養抜きにとても理解しうる作品ではないため、誰も完訳をこころみることがなかった。

 「ヨーロッパの古典的教養を備えた本物の文化人の最も重要な長編詩の日本語訳が、訳者たちの並々ならぬ努力で初めて実現した」と同出版局の郷間雅俊さんがいうように、本書400ページのうち、3分の1が丁寧このうえない注釈と引用聖句に費やされている。「なんとしてもこの作品を現代の日本人に紹介しなければならぬ」という監訳者と訳者の強い執念が感じられる。

 米西戦争(1898年)の敗北で完璧に打ちのめされたスペインにおいて、「スペインとは何か」「人間存在とは何か」と問い続けたウナムーノはこの長編詩で、死から永遠の生に向かう道を歌う。

 「スペイン同様に後発の文明国である日本の読者にとっても、共感できるところが多いのでは」と郷間さん。

 イエズス会のホアン・マシア神父による解題を読んだうえで船出し、注釈をコンパスに風に帆をはらませれば、難破から免れられるかもしれない。航海を終えたとき、読者は新たな世界観を手にしているはずだ。(桑原聡)

産経新聞
2018年4月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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