【話題の本】『戦争は女の顔をしていない』 埋もれた声が伝える戦争

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 2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシの女性ジャーナリストのデビュー作で、代表作との呼び声も高い。第二次大戦に従軍した旧ソ連の女性500人超に聞き取りを行い、埋もれていた証言を掘り起こしたノンフィクション。文庫の刊行は4年前だが、今年、小梅けいとさんによるコミック版が出てから2度も増刷、累計10刷4万部に達した。

 敵のドイツ兵を撃った後、自分の全身が震え、骨ががたがた鳴るのを聞いて泣いてしまったと述懐する狙撃兵。味方が全滅し、せっかく作った大釜一杯のスープが用なしとなったのを覚えている野戦食堂の料理係。4年もの間、男物のパンツをはき続けさせられたことを忘れられない人もいる。勇ましい英雄譚(たん)ではなく、日常に軸足を置く女性たちの感情の揺れが記録されている。「従来の男性中心主義的な戦争史観にあらがうフェミニズム的な視点も注目される理由では」と担当編集者。

 16年に来日した際、著者は語っていた。「男性は戦争を文化や歴史の枠内で考える。対して女性の語りは自由。人間の懊悩(おうのう)だけでなく、動物や踏みにじられた大地の苦しみをも語るのです」。小さな声が戦争の実相を伝える。(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、三浦みどり訳/岩波現代文庫・1400円+税)

 海老沢類

産経新聞
2020年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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