第13回角川春樹小説賞が『風雲月路』稲田幸久に決定。選考委員絶賛の作品とは?

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第十三回 角川春樹小説賞 発表

「第十三回角川春樹小説賞」の最終選考会が5月27日に行われ、受賞作が下記の通り決定いたしました。

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第十三回角川春樹小説賞受賞作


稲田幸久(いなだ・ゆきひさ)
1983年広島県広島市生まれ。広島県広島市在住。大阪教育大学大学院修了。広島県安芸高田市職員として勤務後、退職。フリーランスでチラシ作成等を行う傍ら、執筆を行っている。

『風雲月路』稲田幸久(37歳、広島県広島市在住)

「第十三回角川春樹小説賞」は、2020年11月20日に締め切られ、計454作品の応募がありました。最終候補に残った作品は以下の3作品でした。(順不同)

『京流神剣紀』佐藤遼空

『風雲月路』 稲田幸久

『忍びしのぶれど』 裳下徹和

また、引き続き第十四回角川春樹小説賞の応募作品を募集しています。応募要項は当社ウェブサイトにて公開中です。ぜひご応募下さい。

http://www.kadokawaharuki.co.jp/newcomer/

【受賞の言葉】

第十三回角川春樹小説賞を賜り、誠にありがとうございます。選考委員のお三方、選考に携わられました皆様方に深くお礼申し上げます。

受賞作を書き始める一月前。七月のことです。島根県雲南市を訪れる機会を得ました。中国山地にかかるこの地は、空が近く、どこにいても風を感じることができました。草の匂いに包まれながら風を受けた私は、突然、ある場面が脳裏に浮かんで立ち尽くしたのです。

馬に乗った少年が風と共に駆けている。

ドッドッドッド。

高鳴る心臓の鼓動か、はたまた頭に響く馬蹄の音だったかはわかりません。とにかく、魅了された私は目を見開いたまま動けなくなってしまったのです。

空に抱かれたこの地から始まる小説を書こう、そう思ったのはこの時です。勢いに任せて書いた小説は、私の人生を変える一作となりました。

この度、賞をいただきましたことは望外の喜びです。角川春樹小説賞の名を汚さぬよう精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

【選評】

◆北方謙三「小説でいちばん大切なこと」

『京流神剣紀』は鬼の扱いに疑問が残る。鬼というものを小説の中で扱うにはそれなりの必然性がないといけない。そういった日本における歴史的な経過への配慮が欲しかった。でなければ人間同士の闘争でよくなってしまう。

『忍びしのぶれど』は、この時代を描くのに、手を広げすぎている感がある。そのため散漫な印象になってしまった。この作品の一番の大きな弱点だ。「赤報隊が官軍であるという勅定を持っている」という史実でない設定は斬新だった。ここにより焦点を当てれば、赤報隊という幕末一番の闇への深みが出てくると同時に、もっと手際の良い鮮やかな小説になったと思う。

『風雲月路』については、文体とか物事の切りとり方とかで、私に影響を受けているのではないかと感じた。だから尚更厳しく読んだ。小説で何が大切かと言うと、心に響くような部分が書いてあるかどうかだ。それがこの作品では馬である。馬と人間の関係である。「逆落とし」の場面など実際は不可能かもしれないが、小説内リアリティがある。小説として一番重要な芯をしっかりと書けている点を評価したいし、そこに作者の意識の高さが感じられた。今後も良い小説を書いていけると思う。

◆今野 敏「すごい新人が現れた」

『京流神剣紀』は、誤字を含め、小説としての粗さが目についた。鬼というものが何かというテーマをもっと深く考えなければいけない。ただのシンボルとして扱うのでは弱い。法術とか陰陽五行という要素を加えるなら、もっと面白い話が書けたのではないか。

『忍びしのぶれど』は、実際の歴史を、どのように変えてくるかを期待しながら読んだ。構成が連作短編に近く、一つの長編として捉えるのには難しさがあった。銀座大火や西南戦争といった実話を元にしてはいるが、西郷隆盛がクーデターを計画していたというのには首をひねる。前島密、川路聖謨、藤田五郎などを登場させてはいるが、物語にリアリティと深みを感じなかった。書き方の工夫がほしかった。

『風雲月路』は、すごい新人が現れたなと思った。迫真の描写力と臨場感があり、五感を駆使したリアリティを感じた。匂いを感じる。騎馬遊撃隊が山を下るシーンだけでも、私はこの作品を推そうと思った。矢継ぎ早に名シーンがあって、もう参りましたという感じだ。毛利側も尼子側もそれぞれ人物がしっかり描かれ、また立場を正確に描き分けている点に感心した。ただし、物語の構成はまだ勉強が必要だ。

◆角川春樹「将来性を大きく感じた」

『京流神剣紀』は、鬼が非常に曖昧な存在になってしまったところに大きな弱さがある。鬼という存在に対してもっと分析しないといけないし、より根を深く書かねばならないと思う。史実や伝承に則った鬼ならともかく、怒り狂うと鬼になるという設定は、非現実的なままにとどまってしまった。四国の宇和島から東北までの船旅の描写なども含めて、粗さが目立つファンタジーになっている。

『忍びしのぶれど』は、「赤報隊に本当に勅定が下りていたら……いや、下りてないとは言えない」という絶妙な設定が、読者の想像を喚起するところが良い。オリジナルな美点として評価したい。歴史上の人物を超人として描きすぎたところが、大きくストーリーを損ない、そこが受賞作に推せない部分であった。会話の描写が達者であった点は評価したい。

『風雲月路』は、北方謙三の小説を連想させるものがあった。中国地方での争闘を、毛利側だけではなくて、尼子側からも描いている部分を物語として上手に生かしていて、非常に巧みであった。騎馬隊をクローズアップしているのが、今までにない視点だった。将来性を大きく感じた。会話や設定の幾つかに違和感があったが、受賞作品として推したいと強く思った。

角川春樹事務所 ランティエ
2021年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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