【話題の本】『言語哲学がはじまる』野矢茂樹著

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■「ミケは猫だ」は実は難しい

「言語哲学」といういかにも重たいタイトル。帯に並ぶ哲学者たちのモノクロ写真と、「言語論的転回」という文字。昨今の新書の売れ筋とはだいぶ離れていそうな哲学入門書が、よく売れている。

版元の岩波書店によると、10月下旬の発売後、ただちに重版。現在5刷約2万5000部と、哲学ジャンルの本としては極めて好調だという。

著者の野矢茂樹・立正大教授は長く東京大大学院で教鞭(きょうべん)を執った哲学者。論理学や哲学の入門書も多く、その分かりやすさには定評がある。

本書もいたって平易な書き方だが、内容は一筋縄ではいかない。たとえば「ミケは猫だ」という単純な文。この場合の「猫」は、目の前の「ミケ」という一匹を超えて、世界に存在する多種多様な猫、またフィクションの中の猫も含めた一般性を持っている。だがこの世で実際に出合えるのはあくまで個別の猫だ。では、われわれはどうやって「猫」の意味を理解しているのだろうか-。

フレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタインという20世紀欧州の3人の哲学者が、現代の言語哲学をいかに切り開いていったのか。上記のような具体例を豊富に交えつつ、ユーモラスな語り口で哲学者の思考を追体験させる好著だ。(岩波新書・1100円)

磨井慎吾

産経新聞
2023年12月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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