『みどりいせき』大田ステファニー歓人著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
バイブスに満ちた著者の新人賞受賞スピーチが話題となり、そして無数の若者言葉や隠語を交えた饒舌(じょうぜつ)体で知られる本作。でも少し読んでみると、そうした要素から連想させられる類型とはどことなく趣(おもむ)きが違うことがわかってくる。
最初はとっつきにくい。それは仕方ない。でもその点は、たぶんすぐに慣れてくる。というのもこの本、尖(とが)った語り口ではあっても、踏まえるべき定型は踏まえていて、だからこそ、すんなりと受け入れられる面があるからだ。オーソドックスだと言えそうな箇所さえある。
趣きが違うというのは、たとえば、人の外見や性別の類いがほとんど描写されない。青春と薬物といった、こうした題材の作によくありそうな、性に関する描写もない。つまり――性別などどうでもいい。容姿などどうでもいい。重要なのは精神だ。そういうことなのだと思う。
だからたぶんこの小説の本領は、連発されるギャル語とかではなく、むしろこうした清潔な姿勢にあって、その姿勢にこそ、新しい未来からの風が宿っているのではないだろうか。(集英社、1870円)