『みどりいせき』大田ステファニー歓人著

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みどりいせき

『みどりいせき』

著者
大田ステファニー歓人 [著]
出版社
集英社
ISBN
9784087718614
発売日
2024/02/05
価格
1,870円(税込)

『みどりいせき』大田ステファニー歓人著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

 バイブスに満ちた著者の新人賞受賞スピーチが話題となり、そして無数の若者言葉や隠語を交えた饒舌(じょうぜつ)体で知られる本作。でも少し読んでみると、そうした要素から連想させられる類型とはどことなく趣(おもむ)きが違うことがわかってくる。

 最初はとっつきにくい。それは仕方ない。でもその点は、たぶんすぐに慣れてくる。というのもこの本、尖(とが)った語り口ではあっても、踏まえるべき定型は踏まえていて、だからこそ、すんなりと受け入れられる面があるからだ。オーソドックスだと言えそうな箇所さえある。

 趣きが違うというのは、たとえば、人の外見や性別の類いがほとんど描写されない。青春と薬物といった、こうした題材の作によくありそうな、性に関する描写もない。つまり――性別などどうでもいい。容姿などどうでもいい。重要なのは精神だ。そういうことなのだと思う。

 だからたぶんこの小説の本領は、連発されるギャル語とかではなく、むしろこうした清潔な姿勢にあって、その姿勢にこそ、新しい未来からの風が宿っているのではないだろうか。(集英社、1870円)

読売新聞
2024年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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