『冷戦史(上) 第二次世界大戦終結からキューバ危機まで/(下) ベトナム戦争からソ連崩壊まで』青野利彦著

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冷戦史(上)

『冷戦史(上)』

著者
青野利彦 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121027818
発売日
2023/12/20
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

冷戦史(下)

『冷戦史(下)』

著者
青野利彦 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784121027825
発売日
2023/12/20
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『冷戦史(上) 第二次世界大戦終結からキューバ危機まで/(下) ベトナム戦争からソ連崩壊まで』青野利彦著

[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)

対立構造 世界的な視点で

 「冷戦」と言っても、今どきの学生たちにはピンとこない。ソ連は生まれてこの方見たこともなく、イデオロギーをめぐり大学の講堂すら戦場と化していたなどと想像もつかない。それは、ウィーン体制や第一次世界大戦と同様の距離感で眺める、世界史の一事象に過ぎない。

 しかし、それはいまだに各地に痕跡と禍根を残す。終焉(しゅうえん)してすでに35年ほどだが、戦後40年ほど続いた国際システムだった。この間、閲覧可能となった史料は膨大で、それをもとに研究は飛躍的に進んだ。

 本書は、その成果を系統的に汲(く)んだ冷戦の通史である。その特徴は何よりも、欧州などの一地域に偏らず、米ソだけに焦点を合わせるのでもなく、真にグローバルな視座から冷戦をめぐる国際政治史を描き切るところに見いだせよう。

 著者の青野は、超大国、欧州、日本を含めた東アジア、そして第三世界の四つの地域・次元をカバーし、その間の連関を炙(あぶ)りだす。マクロには、脱植民地化して生まれたはずの米国が、冷戦のさなかに英仏などの植民地帝国と同盟し、みずからも冷戦のメガネから独立運動の闘士をソ連寄りとして敵視するなかで、脱植民地化しゆく第三世界と疎遠になる。ミクロにも、たとえば、グアテマラをめぐる米国の反動的介入からキューバ危機の背景を説き起こす。人類を最悪の核危機に陥れたこの事態は、ベルリン危機と同時並行で進みゆく。その連動の描写は巧みだ。

 核をめぐる米ソ間、同盟国間のハードな駆け引きは、もともと著者の専門でもあり、その叙述はお手のもの。他方本書は、中小国が米ソを競争させて支援を取り付け、両超大国の思惑を狂わせていく微妙な過程にも敏感だ。

 おもに国際関係の次元に焦点を合わせる分、国内政治、社会や文化の領域にまで及んだ冷戦はやや後景に退く。各地域の専門家には不満もあろう。しかし、冷戦史をこれだけのスケールで一筆書きした邦書は珍しい。紛れもなく、冷戦史の一つのスタンダードとなろう。(中公新書 上990円、下968円)

読売新聞
2024年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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