【聞きたい。】浜美枝さん『孤独って素敵なこと』 人見知りだからこそ多くの出会いが…
[文] 藤井克郎
バスの車掌から東宝のオーディションを経て女優になったのが16歳のとき。以来、日本人初のボンドガールにテレビの司会、農政ジャーナリストと幅広く活躍する一方、4人の子を持つ母親としてしっかりと家庭を築いてきた。その生き方と出会いの数々をつづったのがこの本だが、タイトルの「孤独」は意外な気がしないでもない。
「誰もが孤独感って抱えていると思うし、どんな幸せな状況にあっても、生きているだけで寂しいことはある。私は子供のころから1人が好きで、またそうせざるを得なかったし、女優になっても、ここは私の居場所かなと疑問に思い、1人で旅をしていた。孤独の中にいることがいやじゃなかったということがあります」と振り返る。
多くの出会いに恵まれたのも、孤独だったからかもしれない。本には、画家の岩田専太郎に写真家の土門拳、木工家の池田三四郎といった、若いころに薫陶を受けた大家(たいか)から、モデルでコーディネーターのフローレンス西村、インテリアアドバイザーの天沼寿子ら親しく付き合っていた友人まで、さまざまな思い出が描かれる。「ものすごく人見知りをするだけに、この人と知り合いたいと思ったら自ら行動しないと知り合えないですからね」
その多くは、すでに鬼籍に入っている。高齢になるということは、たくさんの別れを経験するということで、世の中には孤独の殻に閉じこもっているお年寄りも少なくない。
「マスコミもよくないわね。年を重ねていくことがつらいことって、ちょっと書きすぎのような気がします。でも1人悲しい人がいたら、1人幸せになろうと努力している人がいるかもしれない。年を取ったら体の節々が痛くなるものだけど、ちょっと背筋を伸ばして生きていく方が気持ちいい。孤独の先にこそ、幸せがあると信じています」(講談社・1200円+税) 藤井克郎
【プロフィル】浜美枝
はま・みえ 昭和18年、東京生まれ。女優としての代表作に映画「007は二度死ぬ」など。現在、ラジオの「浜美枝のいつかあなたと」(文化放送)に出演。