『虹を待つ彼女』
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主人公の変貌ぶりに注目!選考委員絶賛、横溝賞受賞作
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
無人航空機ドローンといえば昨今テレビの空撮等にも多用されているが、その一方で戦争兵器としてのイメージもつきまとう。第三六回横溝正史ミステリ大賞を受賞した本書もまずは、ドローンとゾンビを撃ち倒すオンラインゲームをリンクさせ、自らを標的にするという奇抜な自殺事件から幕を開ける。
SFっぽい出だしだけど、本篇はさらに六年後の、二〇二〇年に飛ぶ。
工藤賢は人工知能開発に限界を感じ、日常生活にも飽きつつある研究者。そんなとき、彼の作った人工知能と会話出来るアプリに対するクレームが会社で問題となる。そのアプリは恋愛も可能だが、それにハマって人間関係を損なう者が出てきたのだ。最高技術責任者の柳田は打開策に、死者を人工知能として蘇らせるサービスを提案。プロトタイプの候補に、六年前ドローンを使って自殺したゲームクリエイター・水科晴の名前が挙がる。
不可解な自殺の謎はもとより、晴は伝説の多い人物だった。工藤はSNSを使って情報収集を開始、程なく彼女には“雨”と呼ばれる特別な存在がいたらしいことがわかるが、その一方で「HAL」という人物から「水科晴について嗅ぎまわるな。お前も、殺してやろうか」という不穏な脅迫メールも届く……。
ミステリーのメインストーリーといえば犯罪事件の解決だが、本書のそれは水科晴という謎めいた美女の素顔の探索にあり。著者はそこに、人工知能と対決する囲碁棋士やら、反人工知能キャンペーンを立ち上げるクレーマーを絡ませ、ストーリーの先読みを容易に許さない。
注目は主人公の工藤で、幼時から才気煥発だった彼は「小賢しく自己防衛に長けた嫌らし」(恩田陸・評)い男なのだが、晴にのめり込むことで変貌を遂げていく。恋愛サスペンスとしても読みごたえありで、近年の横溝賞受賞作では、長沢樹『消失グラデーション』に並ぶ逸品かと。