昭和のプロレスラーを“自白”させた言いたい放題の“調書の束”
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
特別なプロレスファンではない私にして、ひたすら懐かしかった。昭和のプロレスラーをファンの心を盗み続けたのでハート泥棒との犯罪者に仕立て、居酒屋に片っ端からしょっ引き、飲ませて食わせて、波乱万丈の人生を徹底的に吐かせた“調書の束”が一冊になった。
藤原喜明、渕正信、藤波辰爾、天龍源一郎、グレート小鹿、木村健悟、越中詩郎、グラン浜田、将軍KYワカマツ、鶴見五郎といった面々が、時効をいいことに言いたい放題。そんなことがと驚いたり、とんでもエピソードに吹いたり、そのガチなマインドにウルッとなったりするのだ。
相撲、柔道、アマレス、ズブの素人からとその出自は様々だが、私より年上の人もいて、なおかつ現役でさえある人もいるのだからその頑健さには驚くばかりだ。
プロレスラーの栄光は、どの団体に所属するかで変わってくる。ましてや昭和は群雄割拠、四分五裂の時代で、彼らの運命は常にその騒動によって翻弄されるのだ。
彼らが必ず口にするのがジャイアント馬場とアントニオ猪木の名だ。良きにつけ悪しきにつけ、二人が彼らに与えた影響は私という素人が思う以上に強く大きく、更にその延長線上に力道山が君臨するのだ。
本欄読者は誰のプロレス人生に共感を覚えるだろうか。信念の人、案外調子よく乗り切った人、意外な一面を見せた人もいるが、誰に思い入れを抱くかで人生観の一端が見えるような気がする。
プロレスはテレビとともにやってきたと記憶している。もちろん映るのは黒タイツ姿の力道山だ。豊登、遠藤幸吉、芳の里、吉村道明、そう横綱の東富士も参戦したっけ。ブラッシーに噛みつかれ、流血した力道山がいつ怒るか、いつその空手チョップを炸裂させるか、手に汗握った少年時代を鮮やかに思い出した。スポンサーは三菱電機だった。そう、途中リングを掃除するのだが、掃除機の名を“風神(ふうじん)”と言ったんだ。