呑むか撮るか 平山秀幸映画屋街道 平山秀幸 著・鈴村たけし 編
[レビュアー] 小野民樹(書籍編集者)
◆多彩な作品を貫く作家性
日本映画にはアニメとゴジラしかないのかと嘆く人たちに薦めたい、本書は重量級の映画監督・平山秀幸が自作を中心に、映画への思いや監督術を縦横に語ったインタビュー集である。
平山監督はハラハラドキドキ、やがて身につまされるという娯楽映画の中にも、一貫して作家性を貫いてきた。
読んでから観(み)るか、観てから読むか。それならまずはこの三本。大人にも恐怖のノスタルジーをまきおこした大ヒットに、「芸人さんがワーッと笑いをとったときの快感」のようにポカーンとしてしまった『学校の怪談』。
日本と台湾の現代史を背景に、実母の執拗(しつよう)な虐待の記憶をかかえた娘の数十年後の再会に哀切な感情が迸(ほとばし)る代表作『愛を乞うひと』。「こういう文芸作品の方向を求めていくと、五年に一本くらいしか撮れないことになるかも知れない」
最新作、ドラマ撮影限界の標高五二○○メートルでスタッフ百二十人を指揮した『エヴェレスト-神々の山嶺(いただき)』。「この作品は自分にとっていまだに観念的な感じがしていますね」
平山監督は、映画の収入二十万の年もあった貧しくも豊かな十三年の助監督生活を経て、監督デビューが一九九○年の『マリアの胃袋』。以来二十七年、映画撮影の現場は激変する。フィルム撮影が少数派となり、CGの映像が増え、複数キャメラによる演出が当然のようになり、スタッフの人間的なつながりも希薄になってくる。平山監督は、新しい技術に溺れることなく、ホラー、学園ドラマ、ミステリー、藤沢周平時代劇、戦争映画など多彩な作品群をつくりあげてきた。
本書は、テレビや助監督時代の作品を含めた詳細なフィルモグラフィーに索引もついた懇切な編集であるが、インタビュー構成にもう少しメリハリを利かせた工夫がほしかった。
映画生活四十年を振り返っての言葉-「映画ってわけの分かんねえもんだなあというのが本音です」。
(ワイズ出版 ・ 3132円)
<ひらやま・ひでゆき> 1950年生まれ。映画監督。作品「魔界転生」「OUT」など。
◆もう1冊
深作欣二・山根貞男著『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)。「仁義なき戦い」など、アクション・やくざ映画の監督が自作を語る。