『黒白(上)』
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<東北の本棚>村の伝説巡る人間の業
[レビュアー] 河北新報
東北のある村の「ゆきおんな」伝説を巡って、人間の心の深淵(しんえん)や情念の強さ、閉鎖的なムラ共同体の不可思議さを意表を突くストーリーテリングで展開する。盛岡市在住の女性漫画家が、新たな境地を見せた。
相貌失認の病があり、民俗学を学ぶ青年の千草龍地(りゅうじ)が、大鳥居のある村で盲目の少女日来(ひらい)ユキと出会う。
その村には「ゆきおんな」をあがめる伝統があり、神楽刈(かぐらがり)家が大地主として存在している。神楽刈家や村の実態を知ろうとする人間は不幸に見舞われるが、龍地とユキは引き寄せられていく。
「黒白(こくびゃく)」。タイトルが象徴するように、善と悪や罪と罰、偶然と必然、見える世界と見えない世界など、二律背反の要素が混然と絡み合って物語は進んでいく。登場人物たちは迷宮にいざなわれるかのように、思いもよらない結末を迎える。
日本的なムラ社会特有の土着的な世界観と人間の愛憎が招く悲劇を絡ませ、人間の業とは何かについて考えさせられる作品だ。東北で育った著者の感性も生かされている。
本作は漫画誌イブニングに連載。著者は2004年にモーニング新人賞「MANGA OPEN」大賞を受賞。野鳥とのコミカルな日常を描いた4こま漫画「とりぱん」が代表作。
講談社03(5395)3608=上巻680円、中・下巻各702円。