明文堂書店石川松任店「他人事に(したくても)できない物語」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
《精神発達遅滞》と医師から診断された幼い甥と無理心中を図った妹夫婦が遺した借金を抱える香川葉子は、職安で出会い仲良くなった石川希美から仕事を紹介される。難波家の家政婦として働き始めた彼女は、甥への割り切れない想いや当主の義理の息子への思慕を抱えながら、難波家での日常を過ごしていた。悲惨な現状はありつつも穏やかにも見える始まり方をした物語は、徐々に不穏になっていき……。
登場人物たちほど過酷な運命を背負わされた経験のある人はほとんどいないはずだ。しかしこの物語には罪に溺れた人間の苦悩があり、他者への一途な想いがある。その感情自体は誰しもが抱くものであり、それがあるからこそ本書は他人事に(したくても)できない物語になっている。物語の中盤以降、明かされていくいくつもの真相はあまりにも重く苦しい。登場人物に与えられる罰を優しいと捉えるか、冷酷と捉えるかは人それぞれだと思うが、その犯した罪が辿った結末に何故だか私はほっとしてしまった。
罰を受けることで赦される。《罪》と《罰》の正しい形を見たような気がする。