<東北の本棚>エピソード地域で発掘

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<東北の本棚>エピソード地域で発掘

[レビュアー] 河北新報


『おのぼりさんの「叫び」』
よど秀夫[著]

 四季折々、日常で感じた思いを淡々と簡潔な文体でつづる。地域の歴史やゆかりある著名人にまつわるあまり知られていないエピソードや時事を題材に旺盛な好奇心をのぞかせる。
 著者は81歳の山形県川西町議。元NHKニュースカメラマン、記者の経歴を持つ。2013年1月から17年3月までほぼ毎週、米沢新聞に寄稿したエッセー172本と他紙掲載のエッセー6本などをまとめた。
 地方に住む自身を「おのぼりさん」と称し、ノルウェーのオスロ国立美術館で鑑賞したムンクの名画「叫び」に感動し、タイトルにした。
 戦中世代として「書き留めておきたい」という衝動に駆られた投稿は、時に穏やかに時節を表し、感情を抑えつつ憲法改正の動きや政治の劣化を危ぶむ。
 「せこい人」は「せこいと言われた人がいる。東京都の舛添知事、情けない」とリズム良く書き出し、「ひもじさの中での修学旅行」は「今年も8月15日が近づいた。戦争はだめだ」と率直な思いを語る。
 歌手の郷ひろみさんと川西町との縁や満州事変の首謀者とされる鶴岡市出身の軍人石原莞爾(かんじ)が川西町で生まれたという説、未解決の松川事件で死刑判決後に無罪となった故鈴木信さんのエピソードなど、興味は尽きない。
 羽陽印刷0238(23)0467=1000円。

河北新報
2017年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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