『文庫 百姓たちの幕末維新』
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その他大勢の幕末・維新
[レビュアー] 図書新聞
幕末・維新と言えば坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟といったビッグネームが浮かぶが、本書の主人公は名も無き、ならぬ多くは苗字も無き百姓たちである。庄助や久右衛門である。土地と農業を愛しむ彼らではあるが、村内に横たわる富農/貧農の対立、混迷する土地所有、商人の専横、治安の悪化、戊辰戦争の勃発といった危機は容赦なく押し寄せる。時に商人を撃退し、時に代官を更迭し、時に武士顔負けの戦ぶりを見せ、激動の時代を生き抜こうとした無名の彼らは、現代日本人の大部分の具体的なご先祖様である。それぞれの状況と立場と個性においてそれぞれの人生を尽きなく生きた彼らの営みは、私たちの生と直接に連続している。大文字の歴史をいったん脇に寄せ、著者の言う「百姓目線」で楽しみたい一冊。(4・10刊、三六八頁・本体九〇〇円・草思社文庫)