「売れる営業」と「売れない営業」は何が違う? お客様の心をつかむための考え方とスキル
レビュー
『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』
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「売れる営業」と「売れない営業」は何が違う? お客様の心をつかむための考え方とスキル
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
43歳で営業コンサルタントとして独立してから10年間、さまざまな経営者やフリーランスの人と出会ってきました。その結果、成功する人と失敗する人の違いを肌で感じました。
その大きな違いは、営業の経験があるかどうかです。営業を経験したことがない人は、独りよがりでお客様のことを考える想像力が足りません。やりたいことや売りたいことが、消費者の感情とはかけ離れたものになりがちです。
営業は、人を動かすコツを実際に学べる最高の仕事です。(中略)断言しますが、営業の世界で成果を出せたら、どんな分野でも成果が出せる人になります。(「はじめに」より)
『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』(松橋良紀著、大和書房)の著者はこう断言していますが、自身はもともとは口下手の人見知りで、コミュニケーションが苦手だったのだとか。しかし生きていくため仕方なく接客、販売、営業の仕事を続け、その結果として現在に至るというのです。
でも、なぜそこまで強く営業経験の大切さを訴えるのでしょうか? それは、営業ほど自分を磨ける仕事はないからなのだそうです。総合的な人間力は、たくさんの人との出会いでのみ磨かれるもの。しかし単に会えばいいというわけではなく、営業として何千、何万の人と会うことで人間力が磨かれるというのです。また、買うか買わないか、お金が絡んだときの本音を引き出すことによって、人間の本質を知り、本当に信用されるとはどういうことかを学ぶことになるのだともいいます。
いわば本書は、著者自身が営業という仕事を通じて実際に学びとった考え方の集大成。その第3章「お客様の心をつかんで離さない最強の営業術」から、いくつかの要点を引き出してみましょう。
売れない営業は淡々と話し、売れる営業は感情を込めて話す
いうまでもなく、営業にとって大切なのは、お客様の心をつかむこと。だからこそ、決まったトークを話すことに慣れすぎて、淡々とトークするだけの「説明屋さん」になってしまったのでは売れるはずがないと著者はいいます。なぜならそこには感動がないから。だとしたら当然のことながら、相手も感動するはずがないということです。
しかし、一流の営業たちは、つねにお客様に感動を与えるものだといいます。それは、自分自身を毎回感動させるためのルーティンがあるから。「このトークをするときには、意図的にテンションを上げる。そうすれば、全体的なテンションも上がってくる」というようなきっかけになるポイントをつくっているというのです。
セールストークをするときのヤマ場では、相手のイメージに残るリアクションを交えながら、自分も感動させるトークをするように心がけてください。
自分が感動すれば、お客様も100%感動するとは限りません。しかし、自分が感動しないうちはお客様の心が動かないということは断言できます。(104ページより)
大切なのは、毎日お客様に感動を与えられる営業になるために、なにをすべきかを考えてみること。その答えが見つかれば、成績もついてくるようになるといいます。(100ページより)
売れない営業はメリットを伝え、売れる営業はベネフィットを伝える
商品説明のことを、「メリットを説明すること」だと思っている人は決して少なくないと著者は指摘します。しかし、たとえば「このコピー機は、従来のものにくらべてスピードが早くなりました。1分あたり30枚の印刷が可能です」というような説明では、機能について絞り込んで調べている人にしかヒットしないことになります。
つまり、「買う基準」が明らかになっている人にしかわからないということ。「1分あたり30枚印刷できる」といわれても、従来のコピー機がどれくらいのスピードなのか、すでに知っている人でないとピンとこないわけです。
最初から買うつもりで、いろいろと探していたお客様に運よく当たる場合もあるでしょう。そういう場合には、量販店の販売員のようにメリットをまくしたてれば売れることもあるかもしれません。しかし、それは営業にはあてはまらないのだと著者は主張します。商品を選ぶ基準を持っているどころか、その商品の特性をまるで感じていないお客様だからこそ、営業の存在が必要なのだという考え方。
ご存知のとおりメリットとは、特長、長所、利点。そしてベネフィットとは、利益。似ているようにも思えますが、この違いはとても大きいのだそうです。そして、営業が苦手な人、起業したのに売れない経営者、売上が上がらない会社に共通しているのは、メリットばかりアピールしていること。お客様のベネフィットを考えていないから、心を動かすことができず、買ってもらえないということです。
だとすればベネフィットは、「どんな悩みを解消できるか?」といいかえることもできそうです。たとえば先のコピー機の例で、お客様が「印刷が遅い」「よく詰まる」「メンテナンスが大変」という悩みを抱えているとします。だとしたら、次のようなセールストークが考えられるそうです。
営業「いまお使いの機種は、1分で20枚のスピードで印刷します。10分で200枚、1時間で1200枚となります」
お客様「はい、そうなんですね」
営業「こちらの最新機種は、1分で30枚のスピードなので、10分で300枚、40分で1200枚、1時間で1800枚の印刷となります。1時間で600枚も変わりますよ」
お客様「へえー」
営業「1200枚で比べると、いまお使いのものだと1時間かかるものが、こちらの機種だと40分で済みます。20分の節約ですから、これが月10回なら200分の節約で、年間にすると2400分の節約になります。仮に時給2000円なら、年間で8万円という人件費が節約できることになりますね」
お客様「なるほど! うちは時給もそこそこ払っているから、それはいいね」
(107ページより)
このように、小さい単位を拡大して見せるのもひとつの手。ちなみにこの例は法人相手であるため、「人件費が安くなります。年間だと8万円の節約です」という部分がベネフィットになります。一方、もし個人相手だったとすれば、「雑用にかける時間の節約ができて、そのぶんは趣味に時間を使うことができます」などがベネフィットになるはず。このように、お客様にとってなにが利益なのか、なにが特なのかを、しっかり把握しておくことが大切だということです。(105ページより)
売れない営業は弱いニーズに賭け、売れる営業は弱いニーズを強くする
著者は新人時代によく、「ニーズを充分に掘り下げていないから売れないんだ!」と注意されていたといいます。「ニーズ」とは、要求、需要、必要のこと。一般的には「消費者のニーズがある」というような使われ方をします。
営業がお会いできるお客様の中に、「あなたの商品が欲しくてたまらない」と最初からアピールする人はいません。もし、営業の説明がなくても購入していただける商品なら、そもそも営業は必要ないはずです。
つまり、それほど強いニーズがないお客様に会って、商談をして契約してもらうのが営業の仕事です。(109ページより)
そして、強いニーズがない状態のまま商品説明をしてしまうのが、売れない営業。逆に、ニーズが微弱な状態から、強いニーズを引き出せるのが売れる営業だといいます。クロージングがいくら巧みでも、ニーズがまったくない人には売れるはずがありません。なぜなら、必要性を感じない商品にお金を出す人はいないから。そこで、ニーズをいかに引き出せるかが勝負の分かれ目になるということです。では、どうすれば強いニーズを引き出せるのでしょうか?
著者によれば、人が行動するときの動機は「損を防ぐため」と「得があるから」の2つだけ。前者のようなリスクを避ける動機のことを、著者は「マイナス動機」と呼んでいるそうです。だとすれば、「快を得たい」「喜びを得たい」というようなメリットを得るための動機である前者は「プラス動機」ということになります。
重要なポイントは、人が行動する動機は、マイナス動機とプラス動機の2つだけだということ。そして、この2つを満たす要素が「ニーズ」。そして営業の最大の仕事は、ニーズを掘り出すこと。人がモノを買うのは、得があると感じたか、損をしたくないという感情が動いたからだということを知っておくことが大切だというわけです。(109ページより)
「売れない営業」と「売れる営業」とを対比させて解説しているため、とてもわかりやすい内容です。いまよりも売れる営業を目指したい方は、参考にしてみてはいかがでしょうか?