昭和11年夏。警視庁特別捜査隊は奇妙な連続刺殺事件に遭遇した

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帝都大捜査網

『帝都大捜査網』

著者
岡田秀文 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488027735
発売日
2017/07/28
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

昭和11年夏。警視庁特別捜査隊は奇妙な連続刺殺事件に遭遇した

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 これは面白い。恐らく時代推理の雄、岡田秀文の最高傑作といってもよろしかろうと思う。

 舞台は昭和十一年、郷咲(ごうさき)警視率いる警視庁特別捜査隊が、帝都を戦慄せしめた猟奇連続殺人事件に挑む。

 その事件とは―。

 死体が発見されるたびに、何故か、七カ所、六カ所と、死体の刺し傷が一つずつ減っていくという奇ッ怪なもの。

 三つ目に発見された死体の傷が四カ所しかないので、郷咲の秘書で娘の多都子(たづこ)は、五カ所傷跡のある死体がどこかに隠されており、発見の順番が逆になったのではと推理する。

 このミステリーマニアの多都子の存在が、作品に潤いを与えている。

 被害者たちに交友関係などは一切見つからず、共通しているのは、皆、多額の借金を背負っているということだけだ。

 物語の全体像が分からないように作者が筆を進めているので、なかなかストーリーを紹介するのがむずかしいのだが、作品の半ばあたりで、新しい展開あり。

 犯人側では、恐るべき、死のカードゲームが行われており、多都子が読んでいるミステリー小説が伏線となっている、とここまでしかいえない。

 実在した事件(但し、昭和十一年だからといって、二・二六事件ではありませんぞ)も作中に大胆に盛り込まれ、犯人の異常性を際立たせるのに成功している。

 昭和十一年という年代の雰囲気もよく書き込まれており、レトロ感も半端ではない。

 私は、時代小説の場合でもミステリーの場合でも、ふせんを貼りながら読むのを常にしているのだが、本書の場合、二六五ページ以後、貼ってはいない。つまり、これは、私がかなりの興奮状態で読み進んでいったことを示している。

 そして、ラスト一行にサプライズあり! 最後まで楽しませてくれる、堂々の傑作といえよう。

新潮社 週刊新潮
2017年8月31日秋風月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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