“料理本冬の時代”に11年ぶり増刷 「河出」広報の仕掛け

レビュー

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11年ぶりに増刷の快挙!「河出」広報の仕掛け

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 無料レシピサイト増加のあおりを受けて明らかに販売部数を落としている料理本の世界。ロングランで売れ続けるものもあるとはいえ、ここ数年は在庫を売り切っても重版がかからないケースがほとんどだという。

 だが今回の『家庭で作れるロシア料理』は、十一年前の刊行物にもかかわらず、今年に入り二度も増刷を達成したのだ! ロシア文化自体の面白さが伝わってくる良書なのだが、その快挙の裏には、「○○クラスタ」――古くは「同好の士」と呼ばれてきた人びとの情熱と、そのありようを正しく理解している河出書房新社の「広報」の存在がある。

 きっかけはTwitter上での呼びかけだった。「重版すべきなのか教えてユーリ!!!クラスタさん」「#ボルシチにしてやるよ」――この「ユーリ!!!」というのは「ユーリ!!! on ICE」という、フィギュアスケートの世界を描いたアニメのこと。昨秋に放送されるや熱烈なファンを生み出した。「ボルシチ~」はアニメ内に出て来る名(迷?)ゼリフのひとつだ。

「私自身ユーリ!!!の大ファンだったのですが、主要キャラの二人がロシア人である点に加え、続編の舞台がロシアだと暗示するような最終回で……」(担当者)

 だったら、それまでの間にファンが「予習」感覚で手に取ってくれるかも? その期待は見事的中。ツイートに反応した「同胞」たちが各所で注文に走った。

「良い作品のファンの方々というのは、ただ作品を消化するだけじゃなく、自分から積極的に知識を集め、その背景に関する考察を深めていく。その情熱に応えられるだけのものに誘導できれば、必ず相乗効果で広がっていくんです」

 実はこの担当者、他にも数々の販促を仕掛けてきたのだが、その手法の根底にあるのが愛好家たちへの信頼だ。例えば同人誌の読者は、その内容がネットで無料公開されていても、本にまとめられた時にちゃんと購入する。「自分が愛している文化に対するリスペクトがあるぶん、きちんと対価を支払うことを当たり前に受け止めていらっしゃるんです」――そこには「文化とパトロン」の本来の姿がある。

新潮社 週刊新潮
2017年10月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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