『踊る星座』
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笑いすぎておなかが痛い 新境地の青山七恵、恐るべし
[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)
「奇想ユーモア連作短編集」と言えばいいだろうか。しかしこれでは本書の面白さは伝わらないだろう。困った。
本書を読みながら、私はある総選挙の速報番組をちらちら見ていた。時々画面に目が釘付けになるのは、表示される各議員の経歴が変すぎるからだ。「赤羽一嘉(59)アフリカでチンピラに絡まれカンフーの真似で乗り切る」など、今では同番組の名物らしいが、「その情報、選挙番組に要る?」というものばかり。「○○、過半数確保」「△△、惨敗」といった国事の大ニュースと並んで、これらの経歴が淡々と映し出され、実にシュール。私はふと、これは本短編集の魅力とも通底するのではないかと感じてしまった。
本書の主人公は、ダンス用品店勤務の若い女性。仕事もそれなりにできるようだし、信望もあるが、いつでもどこかおどおどしている。
十三編の大半では、彼女の平凡な日常に突如、奇怪なことが起きる。笑う少女と火事、倉庫番の怪老婆、いきなり「ママになって」と言ってくる見知らぬ父子、人格転売、俳句で世直し、星団からの使者……。ヒロインに次々と降りかかる大珍事はどれもエキサイティングなのだけれど、そんな騒ぎのさなか、なにげなく出てくる(話にはどうも無関係な)小さな記述に妙な破壊力がある。魔性の女ダンサーの吐く息は茹でニンジンの匂いがしたとか、友だちに誘われて豪族の墓を掘り起こしにいったのが破局の一因とか、双子の名前が「類(るい)」と「友(とも)」だとか……。大きな衝撃の下で、小さな笑いの波状攻撃が襲う。その快感が癖になる。
なにが起きようと結局は受け入れるヒロインである。忙しいわりに誰の役にも立ってこなかったと思い、しかし絶望するでもない。殺されるか?という時にも、それで人の役に立つならいいかと考え、地球の運命を託されようと、訝るでもない。なんとも偉大な受容者なのだ。
それにしても、笑いすぎてお腹が痛い。新境地の青山七恵、恐るべし。