維新から150年 “黒歴史”にしてはいけない地を旅する

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維新の影 近代日本一五〇年、思索の旅

『維新の影 近代日本一五〇年、思索の旅』

著者
姜 尚 中 [著]
出版社
集英社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784087890112
発売日
2018/01/26
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

維新から150年の“正史”そこから排除された視点とは

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 今年は明治維新から150年に当たる。だが、一般的には「ああ、それでNHK大河ドラマは『西郷(せご)どん』なのか」と思う程度の人が大半ではないだろうか。

 しかし、政府は違う。内閣官房に「明治150年」関連施策推進室が置かれ、積極的な広報活動が行われている。キャッチコピーは「明治の歩みをつなぐ、つたえる」。これをきっかけに、明治以降の歩みを次世代に遺すこと、また明治の精神に学び、日本の強みを再認識することを目指すという。いきなり「明治の精神に学ぶ」と言われても困るが、150年の歴史を再構成すると共に、未来も過去の延長線上にあるという認識を提示している。

 本書は、政府が語る150年を「正史」とするなら、そこから排除されてきた者たちの視点で近代を捉え直そうという試みだ。そのために著者は全国各地を旅して歩く。たとえば長崎市にある通称「軍艦島」は、かつて炭鉱で栄えた島だ。今は完全な廃墟だが、「発展と成長の夢と苛酷な現実が凝縮された場所」だと著者は書く。そして熊本県荒尾市に残る旧三池炭鉱の施設を経て、福島第一原発へ。「エネルギーは国家なり」という国策の影が見えてくる。

 また、秋田県の八郎潟を干拓して生まれた大潟村は、戦後農業の歴史の縮図だ。減反遵守と自主作付けの対立も含め、大規模な協同農業モデルの現在の姿を通して、この国の農政の問題点を浮き彫りにしていく。さらに熊本県水俣市では、あらためて「公害とは何か」と自問する。今年2月に亡くなった作家の石牟礼道子さんや、医師の原田正純さんの言葉にも触れながら、人とその命を軽視する思想に対して静かに憤る。

「黒歴史」とは無かったことにしたい、もしくは無かったことにされている過去の事象を指すネット用語だ。本書に並ぶ事例を決して黒歴史として葬ってはならない。そんな著者の決意が行間から立ち上がってくる。

新潮社 週刊新潮
2018年3月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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