『色いろ花骨牌』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
何と豊饒な世界があったことよ
[レビュアー] 図書新聞
花骨牌は「はなカルタ」と読む。吉行淳之介、阿佐田哲也、尾上辰之助(初代)、芦田伸介、園山俊二、柴田錬三郎、秋山庄太郎、近藤啓太郎、生島治郎各氏と著者の、主に麻雀と酒と旅行を交えた交流を軽妙に描く。しかし本書は同時に哀切に満ち満ちてもいる。なぜなら、いま挙げた本書の主人公九人は、いずれも亡くなっているからだ。だから「骨」の「牌」なのだ。もしあなたがこの九人の名も知らず、もし麻雀にも酒にも(まさか旅行にも)無縁の人であったら、本書の前を通り過ぎてしまうだろうか。しかし、しかしだ。それはあまりにも惜しい。読後、「人間交際」(かつて福沢諭吉は「society」をそう訳した)はこうありたいものだと得心し、かつ泉下の例えば吉行淳之介の豊かな表情と言動をありありと思い浮かべ、何と豊饒な世界があったことよと(過去形なのが本当に悔しいところだが)、誰もが嘆息するはずだ。(17・5・14刊、二七二頁・本体六〇〇円・小学館文庫)