母語の外に出て新しい自分を発見するエクソフォニー小説

レビュー

4
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

地球にちりばめられて

『地球にちりばめられて』

著者
多和田 葉子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062210225
発売日
2018/04/26
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

母語の外に出て新しい自分を発見するエクソフォニー小説

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 タイトルに喚起力がある。地球のあちこちに離散した人たちが、偶然あるいは必然の力で結び合わされ、ひとり、またひとりと旅のキャラバンに加わっていく。

 初めに登場するのは、言語学を研究しているデンマーク青年のクヌート。「自分が生まれ育った国がすでに存在しない人たち」に話を聞くテレビ番組に出演中のHirukoという女性にひかれ、会いに行く。

 語りを引き継ぐのはHirukoだ。生まれ育った、日本らしき島国は、彼女がヨーロッパに留学している間になくなってしまった。以後は「流浪の民」のひとりとなって、スカンジナビアの人なら大体通じる言葉を自分でつくりあげ、「パンスカ」(=汎スカンジナビア)と名付けて話している。

 インドからドイツに留学中で、男性として生まれ女性として生きるアカッシュ、ドイツ女性のノラ、ノラに助けられた、すし職人のテンゾと、語り手は次々交代、旅の目的地も、ドイツのトリアーからノルウェイのオスロー、南フランスのアルルと変わり、終わりが見えない。

 彼らを旅へと向かわせるのは言葉への情熱である。Hirukoは母語を同じくする人ともう一度、話してみたい。クヌートは今いる場所から連れ出してくれそうなHirukoの「パンスカ」に入れ込んでいる。

 著者には『エクソフォニー』という、すぐれたエッセイ集があり、本書はまさに母語の外へ出るエクソフォニー小説である。望むと望まざるとにかかわらず、エクソフォニーを体験するHirukoたち登場人物は、国境を越え、新しい人とのつながりかた、新しい自分を発見して心躍らせる。

 日本が消えた理由は明らかにされないが、旅先のドイツの街に古代ローマ帝国の遺跡は残る。彼らを取り巻く世界は近未来のようでも並行世界のようでもあり、エクソフォニーを体験した人の眼から見る現実そのものにも見えて興味深い。

新潮社 週刊新潮
2018年5月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加