【山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』刊行記念対談】山田ルイ53世×中瀬ゆかり 負けてからが本当の人生
[文] 新潮社
なるべく早く失敗した方がいい
中瀬 HGさんが仰っていたことで「僕たちは何も変わってない。ただ世間が飽きただけ」っていうフレーズが印象的なんですけど、一番怖い言葉って、やっぱり「飽きた」だったりするんですか?
山田 正直、怖いですよ。でもこれもHGさんが仰ってたことですけど、「伝統芸にしていけばいい」と思うんですよね。どんなタレントさんでも、ずっと出ていれば根本的には飽きられているはずなんです。「それ別のところでも言ってたね」みたいな感じで。それでも面白い、好きって思ってもらえるのがずっと売れるということ。だから、飽きられたその先ですよね。どれだけ心を強く持って、「飽きた」のその向こう側まで行けるかいうことなんかな、と最近は思ってます。
中瀬 吉本新喜劇もある種の伝統芸能ですよね。ずっと同じことを言い続けられると、その水戸黄門的な気持ちよさを見たくなってくる。
山田 同じギャグをやり続けてると、だんだんこっちも「何百万回目のルネッサンスやねん」って気が引けてきて、120%でやるのが恥ずかしくなる。そういう瞬間が芸人には必ず来ると思うんです。
中瀬 最初に自分で自分のギャグに飽きちゃうわけですね。
山田 だってこっちは世間の人が目にする2、3年前からやってますから。でもそこで照れたらあかん、引いたらあかんっていうのを、HGさんが教えてくれましたね。実際僕もバーっと売れた後に、ちょっと小声の「ルネッサーンス」になってた時期があるんですよ。そういう時期を乗り越えて、また120%で言えるようになったその時、一発屋になれるんじゃないですかね。
中瀬 人間って忘れられたくないと思う一方で、いまネットに上がった情報はなかなか消えないし、個人レベルでもすぐキャプチャ保存したり、昔より忘れてもらうことが難しい時代になりましたよね。
山田 このSNS時代にうんこ漏らしてたら、ゲームオーバー感あります(笑)。
中瀬 近年EU諸国で「忘れられる権利」が議論されていますけど、自分がしてしまったことが半永久的に消えないって怖いですよ。過去とか失敗が消えないことで苦しんでる人が多いと思うんです。
山田 一方で、そういう人の過ちを非難する人って、失敗も成功もしたことがない人なんじゃないかって僕は思ってしまうんですよ。
中瀬 山田さんが以前ワイドショーで、匿名の誹謗中傷に対して「その厳しい目、自分自身の人生に向ける勇気ある?」と発言されたのが話題になってましたね。
山田 まだ自分自身の価値を知らず、失敗も成功もないからこそ言えることって、あるじゃないですか。簡単に他人を非難できるのは、そういう子らやと僕は思ってますけどね。
中瀬 忘れてもらえない社会というのもあるかもしれないですけど、いま失敗することをすごく恐れますよね。
山田 でも僕は人生なるべく早く失敗したほうがいいと思ってるんです。勝ち続ける人生なんて、本当はないですから。
中瀬 失敗に意味がある?
山田 いや、失敗には意味なんてなくていいと思います。6年間友達と遊ばず、勉強もせず、引きこもりになったことは意味のない失敗だった。だけど大人になって、人生で一度ドカーンと売れる経験をして一発屋になっていく過程で、あ、この感じ前にもあったな、と思ったんです。その落下感を単純に経験として「知っていた」。2回目のスカイダイビングみたいに(笑)。それでも芸人を続けていたのは、青春を無駄にして、履歴書もボロボロで、芸人やってますというのがなくなったら、いよいよ俺することが何もなくなるなっていう理由だけでした。そういう意味で強制的に他の全選択肢を消せていたという部分はあったのかな。
中瀬 失敗の仕方を知っておくと、失敗で終わらずにその先も生き続けていけますもんね。
山田 「ナントカ大成功の法則」とか、ごく一部の勝者の平均値やから、あんまり実戦的じゃないと思うんですよね。人生の実用書としては、勝ち負け両面あって、負けながらも結構飯食えてるみたいな感じの方が役立つんじゃないかって。そういう意味で、この本は失敗界の中でもA5ランクの失敗が詰まった実用書だと思います(笑)。