得体のしれない彼らに会えば、人生が救われる新しい発見がある
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
動物園は明るすぎる。園内は賑やかで、陽気で社交的でなければ浮いてしまいそうだ。
その点、水族館は落ち着く。全体が薄暗く静かで、どんなに陰気で孤独でも変に思われない。
水生ほ乳類には興味のない宮田珠己が向かうのは無脊椎動物の水槽の前。たいがいそこは空いていて思う存分眺めていられるのだ。本書はそんな安寧の場所を求めた国内水族館の探訪記である。
訪れたのは葛西臨海水族園、新江ノ島水族館など関東近郊から、アクアマリンふくしまや加茂水族館など東北、海遊館や串本海中公園など近畿地方、そしてかごしま水族館まで一九か所。友人で人生の路頭に迷うモレイ氏をお供に気楽な旅だ。
クラゲやウミウシ、イソギンチャクやイカ、エビにカニにタコやサンゴ。一五〇種以上の無脊椎動物をカラー写真付きで紹介していく。魚は興味がないといいながら、頭がハンマーの形をしているシュモクザメやお腹じゅうが顔みたいなエイには夢中になる。大水槽の下に立ち、大きな魚が泳ぐところを観ると興奮もする。
世の中では《おじさんひとり水族館》がブームだと宮田は断言する。どうやら疲れた男が向かうのは水族館の暗がりらしい。訪れた先には必ずそんな佇む男がいた。男が水族館で見るもの、それは神秘の世界なのだという。確かにどの水族館に行っても得体のしれない無脊椎動物に出会い、新しい発見があった。
紀行エッセイストとして人気の宮田だが、今回は仕事ではなく自分を癒すために書いたのだという。フリーランスの物書きは将来の不安でいっぱいだ。そんな傾きつつある精神を救ってくれるのは海の生きものを眺めること。生きることの処方箋として水族館に通う。水槽の中を見つめるだけで人生が救われることがあるらしい。
酷暑が続き、息苦しい。無性に水族館に行きたくなった。