東出昌大×柴崎友香・特別対談 「愛する」が始まるとき──映画「寝ても覚めても」公開記念

対談・鼎談

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寝ても覚めても

『寝ても覚めても』

著者
柴崎 友香 [著]/豊﨑 由美 [解説]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309416182
発売日
2018/06/06
価格
814円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「愛する」が始まるとき──『寝ても覚めても』特別対談

[文] 河出書房新社

 「ジャパニーズ・ホラー」?

柴崎友香
柴崎友香

東出 ストレートに訊いちゃいますが……この映画、お好きですか?

柴崎 まだ自分の中で客観的に見られてないところもあるので、この場面がいいというのはあれこれありますけど、映画が好きかそうでないか、というところではわからないです。まだちょっと自分の一部みたいな感じがしていて、好き嫌いの対象になってないかな。

東出 なるほど。いや、嬉しいです、自分の一部というのは。先日カンヌ(国際映画祭)に行ったときにフランスの記者の方が、「これはジャパニーズ・ホラーなのか」って訊いてきたんですね。すると監督が少し間を置いてから「そうかもしれないです。なぜかというと愛というのは狂気だから。この作品には愛が描かれていると思うから、その狂気をホラーだ、恐怖だと思われる方がいても仕方ないことだと思います」と答えたんです。この作品、けっこうホラーですよね。

柴崎 「実はホラー」とは小説を読んだ人にもけっこう言われます。でも恋愛感情を持ったときって、本当に世界が違って見えるというか、いつもと世界が違って歪んで見えてしまって、元に戻らない。それってきっと狂気や恐怖というものを含んでいると思うんですけど、でもその中で何を選んでいくか、すでに変化してしまった自分の気持ちとどう対峙していくかということを書きたかったので、ホラーと言われるのは嬉しいです。人の感情の底知れなさや人間関係の中から生じる狂気みたいなものが書けたかなと。そして映画にもやっぱりそういう部分があったと思いますし。

東出 僕も二回観たけど、自分が今まで出た映画の中でもこんなに咀嚼しきれていないのは初めてです。まだわかってないです。分解できてないです。何が良かったとか何が悪いとか判断できず、ただそのときはそうでしかなかったって思う。でもそういう映画になって良かったなって思います。

柴崎 そうですね。登場人物それぞれの行動がたぶん「わかるわかる」とか「理解できる」といった共感を呼ぶ感じではないと思うんですよね。なんでこんなことをしてしまうんだろうとか、なんでこうなるんだろうということがたくさんあるストーリーですし。最初に完成版を観たときはどう思われたんですか?

東出 本当に率直に不思議だなと思いました。不思議な映画になったなと思ったし、さっき言ったように、頭の中でこういうふうになってるのかなと想像していたものが、そうじゃなかった。例えばラストのほう、朝子と亮平が二人で会話するときに、二人の寄りのシーンも撮っていたのでそれを使うのかな、と思っていたら、セリフ部分ではただ川が流れてるだけの画面とか。

柴崎 そうそう。そういうところが、撮影見てても脚本読んでいてもわからないところだなと思って。もちろん映画はその場の役者さんの演技で変わっていくところもあるだろうけど、監督はどれくらい撮影前に完成形が思い浮かんでいるのかなとか思いますね。でもあの本番前の棒読みでやりとりしているところを見ていると、かえって何かその場の登場人物の関係性がくっきりしてくるみたいなところがあった。

東出 あると思います。それはやっていても実感として湧きました。あと、今までやったことのないお芝居を皆やってるからそれが映ってるんだろうなと思いました。実際それが映っていたし。

柴崎 その棒読みの繰り返しの中で、今この人はこういう感情を持って相手に話してるんだなっていうのが、感情を入れていないはずなのに、だんだん浮かび上がってくるようなところがありました。カンヌで二回目をごらんになったときはどうでしたか?

東出 「自分はこう思ったけど、あれはどういう意味なんだ?」ってストレートに訊いてくる記者さんがすごい多いことが嬉しかったです。「自分はフランス人だけど、女が裏切ったというだけで男はあんなに怒るものなのか?」といった声も(笑)。

柴崎 そこは感想を聞きたいと思ってました。フランスで上映されるとうかがったときに、今まで自分が好きで観てきたフランスの映画から考えても、ラストのほうで亮平があんな態度を取ることや朝子が友達との関係まで壊れてしまう、というのがあまりぴんとこないんじゃないかなと思ったんですよね。なんでそこまで?って思うかもしれないなと。人によって持つ感情が全然違う作品だと思いますし。

東出 「ジャパニーズ・ホラー」って言われたのがすごくしっくりきて、日本人の持つ、いい意味での日本人の感性なんだろうなっていうのは再確認しました。

スタイリング=檜垣健太郎(little friends)/ヘアメイク=山下サユリ(3rd)/撮影=宇壽山貴久子

河出書房新社 文藝
2018年秋号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河出書房新社

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