「大学生5人による強制わいせつ」を基に“学歴社会”を皮肉る

レビュー

5
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彼女は頭が悪いから

『彼女は頭が悪いから』

著者
姫野 カオルコ [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163908724
発売日
2018/07/20
価格
1,890円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「大学生5人による強制わいせつ」を基に“学歴社会”を皮肉る

[レビュアー] 鴻巣友季子(翻訳家、エッセイスト)

 一昨年の男子大学生五人による強制わいせつ事件に着想を得た小説だ。

 これは一夜の出来事ではなく、「数年かかっておきた」と作者は言い、事件に至る道程に紙幅を割き、登場人物らの家族から学校生活、恋愛模様などを詳述する。

 徹底した“学歴社会批評小説”である。なにかにつけ、人を「東海高卒の東大経済学部出の父親」とか、「SFC・AO入試の女子学生」などと揶揄的に呼ぶ。学歴とは少なからず家庭環境と階層で決まる。そうした日本の構造をも痛烈に皮肉っているのだ。

「美咲」の父は給食センター勤務、母は祖父の営むクリーニング店に勤める。その日その日を忙しく過ごす「善き家庭」で、美咲は県立の「そこそこの」進学校から、「偏差値48」の第三志望の女子大へ。主犯格となる「つばさ」は、北大出で農水省勤めの父と、学芸大学出の専業主婦の母をもち、「トップ中のトップ」の教育大附属高校から東大工学部へ。このふたりが出会い恋に落ちた……はずなのだが、美咲はいつしかセックスフレンドから、飲み会の頭数合わせ要員に転落していく。

 暴行はなぜ起きたのか。双方に抜きがたい「無思考癖」がある。美咲は自己評価が低く、決まって「どうせ私は」「ばかだもん」とおまじないのように唱えて現実を見ない。つばさは自分の益にならないことに「思考を充てる無駄」はせず、同じく問題を打ち遣る。

 つばさに気に入られたい美咲の行動描写が刺さる。居酒屋で珍しくビールの大瓶を目にしてわずかに面白く思い、自分にわからない話題で男子たちが盛りあがるたびに、大瓶を見て無理に笑うようにする美咲。ノリよく見せようと、「いっただきやーす」と、おどけて言おうとして声にならない美咲。ああ、もうやめて、という感じ。

 カバー画に、王子然とした男児に果実を差しだされる村娘を描いた寓話画「樵(きこり)の娘」を使っているのが暗示的である。

新潮社 週刊新潮
2018年9月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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