『群青の魚』
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迷走の果て
[レビュアー] 福澤徹三(作家)
このたび刊行された拙著『群青の魚』は『灰色の犬』『白日の鴉』に続く警察小説である。過去の登場人物も姿を見せるが、ストーリーは独立しているので前二作が未読でも問題なく読める。本作の主人公は、特養老人ホームの介護員でシングルマザーの清水穂香(しみずほのか)、交番勤務の新人巡査・武藤大輔(むとうだいすけ)、刑事第一課の新米刑事・風間志郎(かざましろう)の三人だ。
ゴールデンウィーク明けの深夜、敬徳苑(けいとくえん)で入所者の菅本(すがもと)キヨが何者かに殺害される。この事件をきっかけに三人の人生が交錯し、思わぬ方向へ事態は展開していく。思わぬ方向へというのは小説にありがちな謳い文句だが、作者としての実感でもある。
暴力団対策法や暴力団排除条例によって暴力団が衰退する一方、一般人にまぎれて犯罪を繰りかえす半グレ集団が台頭してきた。彼らがターゲットとするのは高齢者や貧困層といった社会的弱者である。金のためなら手段を選ばない半グレ集団と、過酷な労働に疲弊しながらも弱者を守ろうとする警察官や介護員を対比させることで現代を描きたい。
執筆前にそう考えて、結末までのざっくりしたプロットを書いた。ところが「小説宝石」誌上で連載がはじまると、複雑な設定のせいで回を重ねるごとに執筆が苦しくなった。
はじめは連載一回ぶんが五十枚だったのを担当編集者に泣きついて三十枚に減らしてもらい、慎重に筆を進めた。それでもストーリーは思わぬ方向へ迷走し、着地点が見えなくなった。三人の視点人物を書きわけるだけでも煩雑なのに、前二作の登場人物もからめるから一段とややこしい。終盤で強引に風呂敷を畳んだものの、刊行にあたっては大幅に改稿せざるをえず、初校ゲラも再校ゲラも真っ赤になった。
とはいえ特養の介護員や警察官の日常から、オレオレ詐欺や闇スロットといった犯罪の実態まで情報量の豊富さは自負している。巨悪の奔流に押し流される三人は、迷走の果てにどこへたどり着くのか。ぜひご一読を。