社会に出たら「婚活」より先に「家活」をすべき理由とは?

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独身こそ自宅マンションを買いなさい

『独身こそ自宅マンションを買いなさい』

著者
沖有人 [著]
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784023317383
発売日
2018/09/20
価格
1,650円(税込)

社会に出たら「婚活」より先に「家活」をすべき理由とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

独身ほど自宅マンションを買いなさい』(沖 有人著、朝日新聞出版)の著者は、23万人の会員数を誇る分譲マンション価格サイト「住まいサーフィン」を運営するスタイルアクト株式会社代表取締役。

不動産ビッグデータを駆使したビジネス展開を得意とし、富裕層向け相続対策などで多数のメディアにも出演している人物です。

そんな実績に基づいて本書で強調しているのは、「なるべく早くマンションを購入すべきだ」ということ。ここ数年でマンション価格が高騰するなか、思い切って長期のローンを組んで買った人たちの多くが、「あのとき決断して本当によかった」と胸をなで下ろしているというのです。

逆に、チャンスがあったのに買わなかった人は後悔しているのだとか。

だが、今からでも遅くはない。 本書の中で説明するように2018年現在の時点で見て、少なくともあと5年間は都内のマンション価格が下落する恐れは少ない。

10年前ほどお買い得ではないとしても、いずれ買うのであれば早いうちに買っておいたほうが、多くの点であなたの人生にプラスとなる。

買い時を逃して一生賃貸暮らしということになると、平均寿命80年を超え、なお延びつつある今の日本では、生涯の住居費は大きく跳ね上がり、リタイア後に住宅難民になりかねない。

本書は、これまで長年流布していた「住宅すごろく」的な考え方を否定し、「社会に出たらすぐに家を買って資産を増やそう」とお勧めする本である。

これを「家活(いえかつ)」と呼ぶことにした。就活が終わったら婚活の前に家活をしようという提案だ。(「まえがき 独身でマンションを買った人の『末路』」より)

決して安い買い物ではないだけに、不安な気もします。が、実際にはそれでなんの不都合もないのだと著者は断言しています。

これまでは多くの人が、「家は所帯を持ってから買うもの」という固定観念に囚われており、「単身のうちに家を買う」という発想そのものがありませんでした。

しかし単身であっても家を買うメリットは大きく、ライフスタイルや人生そのものが変わるというのです。

そればかりか「老後になっても住む場所がある」という安心感を手に入れることができ、さらに物件を選ぶことで、資産を形成することも可能になるといいます。

そんな理由があるからこそ、著者は本書で、結婚前の若いうちに家を買っておくべき理由を説明し、生き方を自由にしてくれる自宅の選び方を指南しているわけです。

とはいえそれでも、「危険なのではないか」というような不安や疑問は残って当然です。そこできょうは、Q&A形式でさまざまな疑問に答えている第8章「『我が家を買うリスク』についてお答えしよう」のなかから、いくつかをピックアップしてみたいと思います。

独身で家を買うのは無駄なこと?

Q: 独身のうちに家を買うと、結婚したとき無駄になるのでは?

A :無駄ではなく、むしろ人生の選択肢が増える

無駄ではなくむしろ逆で、独身のうちに自宅を買っておくことは、結婚後の人生の選択肢を増やしてくれるのだといいます。

「一人暮らし用の自宅を買ったものの、結婚したことで家族構成に合わなくなってしまった」という場合、一般的にはその物件を売却するということになるでしょう。

その際、資産性があれば売却に問題はなく、割安に買っていれば、それによってキャピタルゲインを得ることもできるわけです。

男性の場合、「自分の家を買ってしまうと、売らない限り結婚後に新しい住宅ローンが組めなくなってしまう」という心配はあります。とはいえ自宅の場合、二重ローンを組むことも不可能ではないそうなのです。

つまり、そうしたやり方をすれば、家族の家を買うために先に買った単身用の家を売却しなくてもよいということ。資産性がありさえすれば、持ち家が無駄になることはないわけです。(202ページより)

ローンを組めるかどうかが不安

Q: ローンを組めないかもしれない。組んでも返せないかもしれない。

A: 返せないローンは銀行も組まない。

「自分はローンを組めないのではないか」「ローンを組んでも返せないのではないか」と心配する人は少なくありませんが、「意外と組めるし、普通は返せる」ものだと著者は言います。

日本の高齢者の持ち家率は8割以上だそうですが、それはいいかえれば、「たいていの人が住宅ローンを組むことができる」ということ。

ちなみに住宅ローンを組むのなら会社員が有利ですが、かといって正社員でなければ借りられないということではないのだそう。

フラット35なら非正規雇用であってもローンを組むことは可能で、籍を入れずに同棲している状態でもパートナーと2人で組むことができるというのです。

ただし、組めるローンは月の返済額が収入の額面の25%以下となる範囲に抑えたほうがいいということも事実。

なぜなら過去の実績として、年間のローン返済額が年収の25%以下であれば、停滞する人はほとんどいないということがわかっているから。

逆に年間返済額が年収の25%以上になってしまうローンは、銀行側が組んでくれないものだといいます。そういう意味でも、「返せない」という心配は無用だというわけです。(205ページより)

起業したい人でも大丈夫?

Q:いずれ独立したいので、ローンで身動きできなくなるのは嫌だ。

A:サラリーマン特権のあるうちにローンは組むべし。

名前の通った会社に就職し、将来的に独立や転職を考えているのであれば、むしろそれを実行する前にローンを組んで家を買っておくべき。

就職したら3カ月でローンは通り、年齢は若くても関係ないといいます。ローンが払えなくなったら、家を売れば済むだけのこと。

逆に、会社を辞めたら年収がどれだけ増えても住宅ローンは組みにくくなり、持ち家は手に入らなくなるものだと心得ておくべき。住宅ローンは、会社員として現在の年収が継続的にもらえる人に手厚いサービスだということです。(208ページより)

一戸建てではだめなのか?

Q: 一戸建てはだめだろうか?

A: 木造は資産価値の下落スピードが早い。土地価格の比率が高い都心以外はNG。

日本の税制では木造住宅の耐用年数22年と規定しており、その影響で不動産市場においても、木造住宅の価値は22年でゼロと査定されてしまうのだそうです。

耐用年数が短いということは、それだけ毎年の資産価値の下落が激しいということ。

そしてその下落スピードは、住宅ローンの元本が減る割合よりも早いのだといいます。住宅ローンは30年、35年の長期にわたって返し続けるものですが、返済が終わるまでに建物の価値はゼロになってしまうということ。

それにより、ローンを完済するまでその物件を売ることはできなくなってしまうというのです。

そもそも郊外の中古一戸建ては、買い手を見つけること自体が困難。売れないということは、一生そこに住み続けるしかないということです。

ローンを完済したあとで売ったとしても、「土地価格 ー 建物の解体費用」にしかならず、郊外の場合は購入価格に占める土地の割合が低いため、払った住宅ローンの総額にはるかに及ばない金額しか残らないのだそうです。

一戸建てを買うなら、その点を覚悟する必要があるということ。しかし、それだけのこだわりがあるのなら、分譲住宅ではなく注文住宅にしたほうがよいのではないかと著者は提案しています。

ただし一戸建てといっても、都心の物件であれば話は別。建物の価値より土地の価値のほうがはるかに高いため、資産価値の下落率は低く収まり、転売すればローンを完済して現金が残ることが多いというのがその理由です。

たとえば著者の友人は、JR恵比寿駅近くで山手線内側という都心の一等地に一戸建てを購入したそうです。

狭い敷地いっぱいに建てられた3階建ての物件で、総額5500万円のうち土地価格が4300万円と約8割を占めていたといいます。

この場合、建物部分の価値が20年でゼロになったとしても、グロスの下落率としては年平均で1%強。それなら都心のタワーマンションよりも低いことになります。

20年後には全体の8割を占める土地資産がまるまる残るということ。一戸建てといっても、こうしたケースなら買って損をする可能性は低いわけです。(220ページより)

不動産価格はオリンピック前がピーク?

Q:「不動産価格はオリンピック前がピーク」と聞くが、いま買って大丈夫か?

A:少なくとも2023年までは購入のチャンスである。

「2020年の東京オリンピック・パラリンピックの前に建設ラッシュ、不動産ブームは終わり、住宅市場もそこで大崩れする」というような発言を目にする機会は少なくありません。

しかし、「その論拠はどこにあるのか、はっきりしない」と著者は反論しています。

道路の整備やスタジアムの建設は、オリンピックを契機として減るはずです。しかし、住宅市場はオリンピックとは関係ないというのです。

住宅価格が低下する理由が考えられるとしたら、それは唯一、建築費の低下が起きることのみ。しかし当分の間、それは期待できません。

現在ゼネコンはどこもオリンピック後まで受注残を抱えており、単価を下げてまで受注に走るような状況ではないというのがその理由。

むしろ人手不足のなか、ゼネコンは作業員確保のため非正規社員の正社員化を進めており、人件費はどんどん上がってきているというのです。

住宅市場と切っても切れない関係にあるのは、金融市場人口動態。いまの住宅市場の高騰も、2013年に就任した黒田東彦日銀総裁が展開した大々的な金融緩和政策がもたらしたもの。

その黒田総裁の最初の任期は、2018年3月まででした。そこで日銀総裁が交代すれば金融政策も変わり、それによって住宅市場が崩れる可能性はあったわけです。

ところが実際には黒田総裁が再任され、次の任期は2023年までの5年間あります。その間、日銀の金融緩和政策は変わらないと見てよいはず。

となれば、むしろこれから5年先までが見通せる、日銀総裁留任のいまこそが不動産購入のチャンスだということ。

そのため、オリンピック後も当分の間、都内の住宅価格が大きく下がる可能性がないというのが著者の見解なのです(225ページより)

賃貸と分譲では、物件の質からして違うもの。

そこで、いま賃貸住宅に暮らしている人は、まず「家を買う」ことに関心を持ち、売り出されている物件をチェックし、見に行ってみることからはじめてみるといい。著者はそう記しています。

なぜなら、「見るだけならタダ」なのだから。まずはそのように、可能な範囲で動いてみる。それがやがて成功につながっていくということなのでしょう。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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