<東北の本棚>言葉の力が生きる力に
[レビュアー] 河北新報
東日本大震災と福島第1原発事故という未曽有の危機の中で、人々は俳句を作り続けた。巨大災害に打ちのめされ、全てを失った人々の前に残ったのは「言葉」だけだった。「俳句に生きる力を得た。自己存在を確認していたのだ」と著者は語る。
著者は1947年、栗原市生まれ。2001年から河北俳壇選者を務める。
「大変な事態だからこそ、今この瞬間に俳句に詠み取るべきなのではと思った」と本書のプロローグに記す。3.11のその日、JR仙台駅前のビル地下にいた。余震の度に看板や樹木が揺れる。周辺に数百人の群衆がたむろしていた。多賀城市の自宅まで、13キロを5時間かけて歩いた。津波に流され、何十台もの車が横倒しになっているのを目撃。<四肢へ地震(ない)ただ轟轟(ごうごう)と轟轟と>。季語がない。「自分が受けた衝撃をそのまま伝えようとすればするほど、季語が邪魔になった」と振り返る。
続く福島第1原発事故、テレビ中継にくぎ付けになった。強烈な原発事故ショック、<春天より我らが生みし放射能>。「自然を壊滅させる悪魔を人間自身が作り上げている事実を、自然は知らしめてくれた」と言い切る。
震災を機に、著者が会長を務める宮城県俳句協会は「わたしの一句」と題して1人1句の俳句を募集、1200句が集まった。<潮騒や瓦礫の上の天の川/盛岡市・細田桂子さん><桜散る人呑み込みし海に散る/仙台市・鹿目勘六さん>。人の死とは何か、命とは何か、悲惨な状況をいかに自分が受け止めて言葉にするか。「その言葉がひいては人に感動を与える」と言う。巻末に自身で解説した自作100句を掲載。
朔出版03(5926)4386=1944円。