『仕掛け絵本の少女』
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<東北の本棚>壮大、時空超えた冒険譚
[レビュアー] 河北新報
仙台、石巻市を主な舞台に据え、女子中学生と絵本の世界から飛び出してきた不思議な少女らが繰り広げる壮大なファンタジー小説だ。慶長遣欧使節団の史実や仕掛け絵本の想像力豊かな世界、現代の生活を巧みにリンクさせた冒険譚(たん)とも言える。
本書は文庫書き下ろし。仙台市に住む女子中学生の小寺音々(ねね)は、近所の神社であったフリーマーケットでお目当ての本と間違えて、古い絵本「仕掛け絵本の少女カイ」を買ってしまう。
その絵本に興味がない音々は、古書店に売ったり、学校の本棚に置いて帰ったりするが、なぜか音々のところに戻ってくる。そんな奇怪な「ストーカー本」の中から、錬金術師の子孫を名乗る少女カイが現れる。
カイの登場によって、現実とさまざまな仕掛け絵本の世界、慶長遣欧使節団の軌跡などが交錯し始め、歴史の秘話が浮き彫りになっていく。カイに翻弄(ほんろう)されながら、音々といとこのタカユキは黒魔術を駆使する魔人・南蛮仙人の野望が引き起こす事件にも巻き込まれる。伊達政宗や支倉常長ら歴史上の人物も絡み、著者らしい時空を超えた奇想天外な筋立てが光る。
「歯をくいしばれ-!」。カイのセリフで、さまざまな絵本の世界を出入りできる設定の妙と幻想的な世界観が相まって、読者を引き込む。仙台市民にとっては福田町や一番町、八木山、勾当台公園など、なじみのある場所が出てきて親近感がある。
著者は1964年青森市生まれで同市在住。2006年に「闇鏡」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。20代に6年間、仙台市で会社勤めをしていた。
小学館03(5281)3555=670円。