もの静かな営業マンのほうが売れるのはなぜ? 円滑なコミュニケーションに必要なのは「共感力」

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まず、この質問で雑談はうまくいく

『まず、この質問で雑談はうまくいく』

著者
青木毅 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784023316447
発売日
2018/12/07
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

もの静かな営業マンのほうが売れるのはなぜ? 円滑なコミュニケーションに必要なのは「共感力」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

書店の書棚には「コミュニケーション」や「会話」「話し方」「聞き方」に関するさまざまな本が並んでいます。プレゼンテーション能力を高めてくれそうだったり、会話が上手になれそうだったり、魅力的に見えるものも少なくありません。

しかし『まず、この質問で雑談はうまくいく』(青木毅著、朝日新聞出版)の著者は、もともと口下手でコミュニケーションに苦手意識を持っていたため、それらにハードルの高さを感じていたのだとか。

そこで、もっと気軽に人とコミュニケーションをとる方法はないだろうかと考えた結果、手に入れた武器が「質問」。質問を主体にした会話法を「質問型コミュニケーション」と名づけ、これまでに3万人以上の人々を指導してきたのだそうです。

「質問型コミュニケーション」では、一般的に“コミュニケーションを行ううえであったほうがよいと言われる能力”を必要としません。

卓越した話術も、ユーモアも、身振り手振りを使った表現力もいらない。雑学も、社交性も、元気のよさも、空気をよむ力も、協調性も、リーダーシップもなくて構いません。

いまのあなたを“変える”必要はなく、いまのあなたの“まま”で活用できる手法なのです。(「はじめに」より)

著者の考え方はとてもシンプルで、そして理にかなっています。小さな声の人が無理に大きな声で話そうとしたり、あるいは内向的な人がむやみに社交的に振る舞おうとしたら、それは「自然な状態」ではないということになります。

本来の自分との差が大きいほど、心から会話を楽しめなくなるため、結果として人に話しかけることがますます億劫になってしまうということ。

私がお伝えしたいのは、話し方を変えるよりも、自分自身の性格を変えるよりも、もっと簡単なこと。 変えなくて、大丈夫なのです。

質問さえできれば、会話のちょっとしたコツさえつかめば、もっと気楽に人との世間話を楽しむことができます。気の合う相手とよりよい人間関係を築いていくことができます。(「はじめに」より)

そんな本書のなかから、きょうは第3章「質問さえできれば、『元気』や『社交性』はいらない」に焦点を当ててみたいと思います。

もの静かな営業マンのほうが売れる不思議

著者はこれまで、質問を主体にした営業手法を「質問型営業」と名づけてノウハウを伝えてきたのだそうです。

そして、いろいろな会社のトップセールスに会い、商談に同席してきた結果、気づいたことがあるのだと振り返ります。それは、どのような業界であれ「売れている営業はもの静かに話すタイプが多い」ということ。

営業に「元気で明るい」イメージをお持ちの方も多いでしょうが、実際問題として「元気だから」「大きな声で挨拶をしてくれるから」という理由で商品やサービスを購入するお客様はいないはず。

むしろ元気よく勢い込んで喋られると、「売り込まれる」と感じ、拒絶反応を示してしまうことも十分に考えられます。

お客様が商品やサービスを購入する場合、決め手となるのは「その商品やサービスが役に立つのか」「自社にどんなメリット(利益)をもたらしてくれるか」

つまりお客様は、その判断をしたいのです。営業が元気であるかどうかよりも、商品の本当の価値を伝えてくれる「信頼できる相手」なのかを見極めているということ。

もの静かな営業の商談では、営業自身もお客様も、相手の話をよく聞いています。 フロア中に響き渡るような大きな声ではうるさくて、相手の話が頭に入ってきません。

少し静かに対応するくらいのほうが、お客様は集中して話を聞いてくれる。相手の思考を邪魔しないから、決断がしやすくなる。つまりは受注に繋がりやすくなります。(91ページより)

この法則は、営業以外のコミュニケーションにもあてはまると著者は考えているといいます。「会話上手な人は、明るく元気」というのが一般的なイメージかもしれませんが、無理をする必要はないのです。

だいいち、聞く側の立場に立ってみれば、明るすぎる人のテンションやペースに合わせるのはなかなか疲れるものです。もの静かくらいのほうが、相手から警戒されず、人からの信頼を勝ち取りやすいとすら言えそうです。

重要なポイントは、不自然な状態では、楽しい会話は生まれないということ。声のボリュームや滑舌を変えなくても、相手に「なにを」「どのように」聞くかで会話の弾み方は変わってくるというわけです。

「大きな声で、明るく元気に話したほうがいい」という固定観念にしばられ、無駄な努力をする必要はないのです。(90ページより)

円滑なコミュニケーションのカギを握る「共感力」

質問型コミュニケーションにおいて著者は、「好意→質問→共感」のサイクルを繰り返すことを推奨しているといいます。

会話が続くかどうかは、質問よりも「質問のあとの共感」にかかっているから。「なるほど」「そうだったんですか」「素晴らしいですね」などはっきりアクションを示されれば、相手は安心して話を続けることができるようになるわけです。

共感は、いわば「私はあなたの話に興味を持っています」「私はあなたと話を続けたいです」「あなたとの会話を楽しんでいます」というサインです。

「私の質問に答えてくださってありがとうございます」という感謝のあらわれでもあります。共感の気持ちを示されて、嫌な気持ちになる人はいません。(97ページより)

「共感」は、相手との会話をなめらかにしてくれるもの。「共感」を示し合えば、お互いに尊重や尊敬の気持ちが芽生え、心と心がつながっているような和やかな関係を築くことができるといいます。

ただし意識しておくべきは、「共感=相手の意見に賛同する」という意味ではないということ。いつも、相手の意見に合わせなければいけないという意味ではないわけです。

まずは相手の言葉を「なるほど」「そういう考え方もあるよね」と認めたうえで、自分の意見を伝えることを心がければいいだけ。

そうすれば相手と同じ土俵でコミュニケーションをとれるようになり、その結果、より建設的に話し合ったり、議論しあったりできるようになるということです。(96ページより)

会話は「ピンポン」ではなく「キャッチボール」

円滑なコミュニケーションにおいては会話の速度も重要ですが、打てば響く会話は難易度が高いものでもあります。

しかし、相手の返答に素早く言葉を返すより、「好意→質問→共感」の手順をていねいに行うことのほうが重要と著者は主張しています。早く返事をすることに気を取られ、「質問」や「共感」がおろそかになっては意味がないからです。

相手に好意(興味・関心)を持って質問をする

相手が返答する

返答に対して共感する

さらに好意を持って、質問をする

(102~103ページより)

このサイクルを、ひとつひとつていねいに行っていくことが大切だということ。たとえるなら、相手の球をすぐに打ち返す「ピンポン」ではなく、相手の球をしっかり一度受け止めてから投げ返す「キャッチボール」のようなものだという考え方です。

相手から投げられたボールを「共感」でしっかり受け止め、そして「質問」というボールを「好意」を持って投げ返すわけです。スピーディに行う必要はなく、頭の回転の速さも関係なし。

なぜなら、ゆったりとした気持ちで「好意→質問→共感」を繰り返せば、相手もそのペースに合わせて言葉を返してくれるものだから。そのため、落ち着いた雰囲気を自らつくっていくことが大切なのです。(102ページより)

話す割合は、「相手が8割・自分が2割」

著者は「無律して大きな声で話をしたり、明るく社交的に振舞ったりする必要はない」と主張しているわけですが、その一方、実は話し好きな人のなかにも「隠れ会話下手」がいるのだそうです。

それどころか、「自分は明るく、社交的だ」と思っている人ほど注意が必要かもしれないとすら言うのです。

・ 気づくと自分の話ばかりしている

・ 相手が興味を持っていなくても、つい話を続けてしまう

・ 最後まで人の話を聞かず、言葉をかぶせてしまう

(110ページより)

著者いわく、これらに該当する人の会話が盛り上がらない原因は「話しすぎ」。聞く側の立場になるとよくわかりますが、興味のない話を延々と聞かされるのはなかなかつらいものです。

多くの場合、聞き手側の言葉数は減っていき、無表情・無反応になっていきます。そのため、心当たりがある人は、会話している相手の表情をよく見ることが大切。

先にも触れたとおりコミュニケーションはキャッチボールなので、一方的に球を投げるだけでは成立しません。つまり円滑なコミュニケーションにおいては、できるだけ「相手に話してもらうこと」が肝心。相手のことを知り、理解することが、よりよい人間関係を築いていく第一歩となるわけです。

理想は、「相手が話す割合が8割、こちらが2割」のイメージ。「自分は話しすぎてしまう傾向がある」という自覚のある方は、話したくなったときにぐっとこらえ、言葉を飲み込むことが大切。そんなときこそ立ち止まり、相手の言葉に耳をすますべきだということです、(110ページより)

たとえば「ご出身はどちらですか?」「最近、お仕事は順調ですか?」など、最初は、なにげない“たったひとつの質問”からでいいのだと著者は強調しています。

難しく考えず、“まず、この質問を”と、最初の一歩を踏み出すことが大切なのでしょう。たしかにそのくらい楽に考えれば、質問から話を進めていくことはそう難しいことでもないように思えてきます。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2018年12月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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