平成の終わりに知っておきたい、「天皇陛下の仕事」と「皇室のお金」について

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天皇制ってなんだろう?

『天皇制ってなんだろう?』

著者
宇都宮健児 [著]
出版社
平凡社
ISBN
9784582837933
発売日
2018/12/14
価格
1,540円(税込)

平成の終わりに知っておきたい、「天皇陛下の仕事」と「皇室のお金」について

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

およそ3カ月後の4月30日に、天皇陛下が生前退位されます。次いで5月1日には皇太子が新天皇に即位。「平成」が終わりを告げ、新たな元号の時代が始まることになります。

天皇陛下の退位は、119代光格天皇(1771~1840)以来およそ200年ぶり。そもそも、まずは皇室典範を改正して生前退位を制度化する必要があったため、長きにわたって議論が交わされてきた経緯があります。

しかしいずれにしても我々は、新たな時代の幕開けに立ち会うことになるのです。

誠意を持って国民に寄り添ってくださった今上天皇に関しては、多くの人々が好意を抱いていることでしょう。しかしその一方、「天皇制」についての知識を持っている方はさほど多くないのではないでしょうか?

逆にいえば、元号が変わろうとしているいまこそ、天皇制を知る格好のタイミングなのかもしれません。そこでご紹介したいのが、『天皇制ってなんだろう? あなたと考えたい民主主義からみた天皇制』(宇都宮健児著、平凡社)。

これまでにも「エネルギー問題」「戦争」「国家」「宗教」「お金」「性の多様性」などさまざまなテーマを取り上げてきた、「中学生の質問箱」シリーズ第10弾。

つまりは中学生を対象としたものですが、大人にとっても価値のあるシリーズであると言えます。なお今作の著者は、2012年と2014年の都知事選に出馬したことでも知られる弁護士です。

疑問を投げかける質問者(中学生)と回答者とのやりとりを軸に、会話形式で話が進められていく構成。そのため読みやすく、知りたいことを無理なく理解することができます。

きょうは第3章「今はどうなってるの?」内の1「今の天皇制ってどうなってるの?」のなかから、「天皇陛下の仕事」と「皇室のお金」に関するトピックスを抜き出してみたいと思います。

天皇はどんなことをしているの?

天皇が行う「国に関わること」は憲法に規定されており、簡単にいうと次のようになるそうです。

国会の指名にもとづいて、内閣総理大臣を任命すること。(第6条1項) 内閣の指名にもとづいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること。(第6条2項) 第7条で定められた1~10の「国事行為」をすること。 (95~96ページより)

実際にはこれら以外に、国事行為ではないものの純粋に私的行為とも言えず、公的な意味のある行為も多数(「公的行為」)。ただしそういったものは、法令などではいっさい規定されていません。

だとすれば、「なにが公的行為にあたるにか」が気になるところですが、たとえばいい例が国会開会式への臨席。「国会を招集すること」自体は国事行為であるものの、国会開会式への臨席は国事行為ではなく公的行為とみなされているというのです。

同じように「認証官任命(国務大臣などの官吏(認証官)の任命式)」は国事行為ですが、式への臨席は公的行為。その他、国民体育大会など国民的行事への臨席、式典や公開の場においてメッセージを朗読する行為、国内訪問、外国への公式訪問、外国元首との親電(電報)交換、外国の賓客への「接受(せつじゅ)」、園遊会の主催なども公的行為とされているのだそうです。

宮内庁のホームページによると、国事行為の事項についての閣議決定の書類は2017年中で約960件。内閣総理大臣および最高裁判所長官の親任式、国務大臣や最高裁判所判事などの認証官任命式、外国特例全権大使の信任状捧呈(ほうてい)式、勲章親授式などの儀式をはじめ、他にもさまざまな行事が皇居で行われ、その件数は2017年中で約200件にのぼるそう。

そればかりか、全国戦没者追悼式、日本学士院授賞式などの東京都内での行事への臨席、全国植樹祭、全国豊かな海づくり大会、国民体育大会などの地域訪問も多く、各地の福祉関係施設はこれまでに通算500カ所以上尋ねたとの記述も。

また、雲仙・普賢岳噴火(1991年)、北海道南西沖地震(1993年)、阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、新潟県中越沖地震(2007年)、東日本大震災(2011年)、長野県北部地震(2011年)、広島県8月豪雨(2014年)、関東・東北豪雨(2015年)、熊本地震(2016年)、九州北部豪雨(2017年)の際には現地に赴いて犠牲者を悼み、被災者を慰め、救援活動に従事する人々を励ました、とも記載されているといいます。これらについては、記憶にある方も多いのではないかと思います。

さらに1994年には、太平洋戦争の激戦地だった硫黄島、父島、母島へ、1995年には長崎、広島、沖縄、東京(東京都慰霊堂)へ慰霊に赴き、その他、サイパン(2005年)、パラオ(ペリリュー島・2015年)、フィリピン(2016年)も訪問しているのだといいます。

こうして見てみるだけでも、かなりのお忙しさであったことは想像に難くありません。ただし、こうした行為は憲法で定められていないため、議論もあるのだとか。(95ページより)

「皇室会議」とは

皇室典範(皇室に関する法律)の28条において、皇室のことを決定する皇室会議が定められているそうです。10人で組織されることになっており、その内訳は皇族2人、衆議院と参議院の議長・副議長、内閣総理大臣、宮内庁長官、最高裁判所長官、最高裁判所判事。そして、この会議で審議する事項は、次の5つ。

皇位継承の順序変更

立后(りっこう)と男性皇族の婚姻(立后とは、皇后を正式に決めること)

皇族の身分の離脱

摂政の設置・廃止

摂政の順序の変更

(98~99ページより)

これまでに開催された皇室会議は8回で、1947年の会議では14人の皇籍離脱が可決されることに。2回目から7回目まではすべて男性皇族の結婚についてで、いずれも承認されています。(98ページより)

お金について

戦前、天皇は大地主、大株主であり大変な資産家でした。しかし日本国憲法の施行により、戦前の御料地などの皇室財産はすべて国の所有に移されているそうです。

憲法第88条で、「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない」としています。(101ページより)

皇室に関わるお金は「宮内庁費」。宮内庁の運営に必要な事務、人件費で2018年度の予算は114億6582万円だったそうです。宮内庁費以外の皇室に関わるお金については、皇室典範とは別の「皇室経済法(1947年施行)という法律によって定められており、「内廷費」と「宮廷費」、「皇族費」の3種があります。

これらの予算が決められるのは「皇室経済会議」で、会議の議員は衆議院・参議院の議長・副議長および内閣総理大臣、財務大臣、宮内庁長官、会計検査院長官の8人。議長は内閣総理大臣で、予算は国会の議決を経ることが必要。

内廷費は「天皇並びに皇后、太皇太后、皇太后、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃および内廷にあるその他の皇族の日常費用その他内廷諸費にあてるものとし、別に法律で定める定額を、毎年支出するものとする」となっています。

つまり、天皇一家と皇太子一家の私的な費用で、私的に雇用している人件費、食費や衣服代や私的な交際費、私的な旅行費用、私的な神事の経費、奨励金など。現在の年額は3億2400万円だそうです(宮内庁ホームページより)

皇族費は、「皇族としての品位保持にあてるために、年額により毎年支出するもの」で、天皇一家と皇太子一家以外の皇族に支払われます。皇族費の定額は皇室経済法によって定められており、2018年度はひとりあたり3050万円。これをもとに各皇族ごとに皇族費を算出するのだといいます。

3つ目の宮廷費は、「内廷諸費以外の宮廷諸費に充てるものとし、宮内庁でこれを経理する」とあり、つまりは公的なお金。褒章費や招宴費、公的な交際費、国内外訪問などの経費、皇室用財産や皇居等の施設の維持費、自動車重量税などです(勲章、褒賞の費用は内閣府賞勲局の予算)。

2018年度の内訳は以下のとおり。

儀典関係費 23億6500万円

宮殿等管理費 10億2900万円

皇室用財産修繕費 14億4500万円

皇居等施設整備費 39億4100万円

文化財管理費 2億1400万円

車馬管理費 1億7800万円

合計 91億7145万円

以上をまとめると、2018年の皇室関連の予算額は次のようになります。

内廷費:3億2400万

皇族費:3億6417万

宮廷費:91億7144万

皇室費合計:98億5961万

宮内庁費:114億6581万

皇室関連費合計:213億2543万

(104~105ページより)

これらすべてが、税金から支払われているということです。(101ページより)

当然のことながら、ここでご紹介したのは「仕事」と「お金」に関するほんの一部にすぎません。これだけで天皇制を理解できるはずもないわけです。また政治的信条などさまざまな問題が絡んでくることでもあるので、内容の細部について著者の考え方に対する異論が出てくる可能性も否定できないでしょう。

しかし、「いろいろな考え方がある」という本質を認めることは大切です。そうしたうえで、天皇制を知るための“教材”のひとつとして、本書からは多くの学びを得ることができると思います。この機会に天皇制と向き合ってみるためにも、ぜひ手にとってみてください。

Photo: 印南敦史

メディアジーン lifehacker
2019年1月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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