『カレー移民の謎』室橋裕和著

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カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」

『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』

著者
室橋裕和 [著]
出版社
集英社
ISBN
9784087213089
発売日
2024/03/15
価格
1,320円(税込)

『カレー移民の謎』室橋裕和著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

 バターチキンカレーにふっくらしたナン。オレンジ色のドレッシングがかかったサラダにマンゴーラッシー。これが千円弱でいただけるのだから幸せだ。

 そうした店には赤い三角を重ねた国旗が貼られている。ネパールから来た人が営む「インネパ」はいつしか街の風景となった。

 どうやって日本にきたのか。なぜどこもメニューがそっくりなのか。知りたい気持ちと同時にためらいも感じた。彼らの姿が戦後、都会に来た地方出身者と重なって見えたからだ。

 読むと、苦労を乗り越える逞(たくま)しさより堅実さが際立つ。失敗しないために成功例を真似(まね)るが、失敗を恐れて失敗に陥る。挑戦者としては危うい堅実さだ。

 変化のカギは地域とのつながりにあるようだ。日本人の声が挑戦に踏み出す自信を引き出し、店は賑(にぎ)わう。私たちとの対話があの味をおいしくする。

 そんなカレー移民が、暮らしにくくなった日本を離れて新天地に出ているという。あの味が食べられなくなるのは辛(つら)い。今日のランチは近所のインネパにして、店員さんに話しかけてみよう。(集英社新書、1320円)

読売新聞
2024年4月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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