『緋い川』
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うちの主治医のいうことには 『緋(あか)い川』著者新刊エッセイ 大村友貴美
[レビュアー] 大村友貴美(作家)
「外科医は、人の体を傷つけるのが仕事でね」
診察室で、主治医がそうのたまった。
「医者じゃなかったら、傷害罪になるよね」
なるほどと思った。これまで入退院歴十回以上、そのほとんどが肺炎、感染性胃腸炎などの内科系だが、切った貼ったの外科系もある。しかし、言われるまで、外科医に恐ろしい印象を抱いたことがなかった。
医療ドラマでの手術シーンは、一つの見せ場である。しかし、あれが医療行為ではなかったとしたらどうだろう? 目撃すれば、恐怖に慄(おのの)くのではないだろうか。
患者やその家族だったりすると、医療者ではなくても、医療の進歩を肌で感じる。たとえば、いざという時、人工呼吸器を使うか、心臓マッサージや胃ろうはどうするかなど、延命治療を意識した対処まで事細かに医師に確認されることがある。そんなことを想定していないので、驚くことがままあるのだが、本人や家族が「死に時」を決めるようで、それもありうる時代になったのかと思った。なかなか老衰死を迎えるのは難しそうだと思ったりもした。
新刊『緋(あか)い川』は、そんな経験にインスパイアされ、書いた作品である。
約百二十年前の明治三十三年、若き外科医が、鉱山町で起こった奇怪な事件の真相に迫りながら、医師として、救いたくても救えない命、救えても以前のように動けるのかわからない命と向き合い、究極の選択を迫られる。現代にも通じる「人の生と死」を考え、葛藤し、成長していく姿を描いた。
『緋い川』は、明治時代の医療や風俗、時代背景などを反映させた歴史ものでもある。かつての日本を舞台にしたとはいえ、時代を問わない普遍性が根底にあるので、登場人物たちに共感していただけるのではないかと思う。彼らの目を通して、時代や周りで起こるできごとを体験していただければ幸いです。