『エビデンス仕事術』
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もうコミュニケーションで消耗しない。一度で人を動かす仕事術とは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
仕事の大半は、人を説得し、巻き込むことによって成り立っているもの。
それは難しいことでもありますが、もしも自分の主張が他人に100%スムースに伝わったとしたら、コミュニケーションでの摩擦で磨り減ることなく、仕事そのものに集中できるようになるはずです。
そして、それを実現するために必要なのがエビデンスだと主張するのは、『一発OK! をもらえる人の エビデンス仕事術』(光成 章 著、SBクリエイティブ)の著者。
エビデンスとは、ビジネス上の判断のもととなるような、
・ 統計データや科学的研究
・ 1枚の写真
・ 消費者のなんてことのない一言
など、「根拠となる“事実”」のすべてを指します。 あなたがどんなに言葉を尽くしても伝わらなかったことが、たった一つのエビデンスを提示するだけで強く相手の心を動かすのです。 (「はじめに」より)
そこで本書では、自身の主張をサポートする確たるエビデンスの集め方、提示の仕方を明かしているわけです。
きょうはそのなかから、日常に焦点を当てた第5章「アイディアの引き出しを増やす 日常の習慣」に注目してみたいと思います。
情報リテラシーを高めるための方法を理解する
能動的にエビデンスを得ようとする際には、「ここに行ったらこんな情報が得られそうだな」という前提となる知識が必要。
しかし当然ながら、自分の頭のなかにある知識だけを頼りにリサーチを行っていたのでは、探索範囲は広がっていきません。
そのため、やがて経験のない新たな課題が浮上したときに行き詰まってしまうわけです。
一方、普段から受動的にさまざまな意図せぬ情報に触れている人は、そうした情報に対する「直感」というべきものが、どんどん広げられていくものだと著者は主張しています。
そして理解すべきポイントは、一見ムダに見える日常的な情報収集が、巡り巡って仕事のスピードとクオリティを上げていくということ。
なお、著者が紹介しているリテラシーの高め方には、次の2つの方法があるそうです。
1. 情報感度を上げる
2. 実績・経験を活かす
(214ページより)
1.のポイントは、仕事とは関係ない部分で勝手に入ってくる情報の量と質を、いかにして上げていくのかということ。
そして2.の観点においては、日ごろの仕事とそれに伴うエビデンス集めを記録し、型にしていくことで、次の機会に応用できるようにしておくことが大切。
そうすることで、情報の探索範囲が広がっていくわけです。(212ページより)
課題を明確に意識すると情報感度が高くなる
これだけ情報があふれている時代であるだけに、探している情報が見つからないときは、情報そのものがないというよりは、「あるのにそれに気づかない」と考えるべきだと著者。
また情報の検索技術というよりも、自分自身の情報感度の高さが、いいエビデンスと出会えるかどうかを左右している面もあるといいます。
そして重要なのは、誰しも情報感度が高くなる時期があるということ。
情報感度とは、「自分自身に課題を与え、それについて考えたり行動したりしているとき」に高まるものだというのです。そうだとしたら、その状態は自分でつくり出せることになります。
自分が課題を意識した時点から、情報感度は高まるということ。だからこそ、そのスタートを早め、高感度期間を最大限に長く使えるように意識することが大切であるわけです。
そのためのコツが、「ギブファースト(give first)の原則」です。 自分が何かを得たい時は、文字通りgive & takeの順で、先に与える、先にアウトプットするということです。(218ページより)
著者も普段から、この「ギブファーストの原則」を意識しているそう。
理由は、そうすることによって人に信頼され、他者から情報を得られることがあるというのがまずひとつ。
しかし、実はもうひとつの効果のほうが大きいのだといいます。
自分の課題意識から得た情報の説明を、自分の口を使って誰かにgiveしようとして何度も繰り返すと、自分の意識がよい意味で「洗脳」され、そのテーマへのアンテナがさらに高く太くなるというのです。
また、説明の上達を通じて、徐々に課題が整理されていき、どんな情報が自分にとって必要なのかがクリアになるのだとか。
すると生活全般において、もっと発見が大きくなり、使える情報が加速度的に増えていくわけです。(217ページより)
感性は大人になっても鍛えられる
感性が鋭いクリエイター気質の人は、ものごとをいろいろな角度から見ることができたり、想像力が豊かだったり、他の人とは違って独自性があったりするもの。
そして、それらを育むためには、「子どものような」純粋さ、自分への正直さが重要で、大人になってからその域に達するのは難しいと思いがちです。
しかし実際には、大人になっても刺激によって感性を鍛えることは可能。好奇心を失わず、かつ軽快に行動して実体験を増やす努力を怠らなければ、感性のアップデートを続けることはできるということです。
また大人には、子どもよりは上手に使いこなせる「自分自身のことば」があるもの。大人はそれを通して、より広い世界とつながれるわけです。
さらに大人は、経済的な力を使い、子どもよりも広い範囲を行動できるはず。
たとえばアート鑑賞なども、行動範囲が広いほうがたくさんのことを経験できるはず。その気になれば、世界各地のどの美術館へ足を運ぶことも不可能ではないでしょう。
だからこそ、大人だからこそ使える手段も活用しながら、鍛錬を続けていくことが大切だということ。(219ページより)
著者は、矢野経済研究所やインフォプランという調査会社側」と、リーバイスやシャネルなど「クライアント側」の両方で、計30年以上にわたって情報を扱う仕事に携わってきたという人物。
つまり、情報収拾のプロフェッショナルとしての経験が、本書には活かされているわけです。人を動かすこと、納得させることで悩んでいる方は、手にとってみてはかがでしょうか?
Photo: 印南敦史
Source: SBクリエイティブ