銭形平次の傑作選が次々刊行! 時代を超えて読み継がれる痛快6編

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  • 銭形平次捕物控 傑作集三-暗号・謎解き篇
  • 銭形平次捕物控 傑作集
  • 銭形平次捕物控 傑作集二-人情感涙篇

書籍情報:openBD

お屠蘇気分の正月に読みたい 謎解きが百花繚乱の痛快六篇

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 時代小説の批評の筆をとる者にとって、昨年から嬉しいことが続いています。それは、懐しや、双葉文庫からテーマ別に編集された銭形平次の傑作選が次々に刊行されているからです。

 最新刊は『銭形平次捕物控 傑作集(三) 暗号・謎解き篇』で、自分は一度として同じトリックを使ったことがないといっていた野村胡堂のこと、現代ミステリに優るとも劣らない六篇が収録されています。

 アリバイ崩しの妙味がうかがえる巻頭の一作「碁敵」をはじめとして、暗号解読を扱った「北冥の魚」、兇器の隠し方が面白い「矢取娘」、足跡の謎を追う「歎きの幽沢」、怪奇味たっぷりにはじまる「影法師」、偽装自殺をあばく「美しき獲物」と、正に謎解きの百花繚乱、胡堂のことばに嘘はありません。

 また、銭形平次の物語を読んでいて面白いのは、平次と子分のガラッ八の八五郎の人間関係です。胡堂は八五郎を一端の江戸っ子として描いており、二人の関係は上下ではなく、あくまでも対等です。

 そんな二人のやりとりと向日性の“ですます調”の文体が悲惨な事件にも救いを与えてくれます。

 さて、双葉文庫には、この『暗号・謎解き篇』の前に、『銭形平次捕物控 傑作集(一)陰謀・仇討篇』『同(二)人情感涙篇』の二冊が刊行されていますが、前者には貴重なシリーズ第一作「金色の処女」が収録されています。

 第一作では、まだシリーズ全体のトーンが完成されておらず、平次といえば投げ銭と決まっていますが、初期の作品では、袂から永楽銭を取り出すと二三尺空中に飛び上がって、落ちて来るところを掌で受けると、これがその儘銭占。と、銭形のもう一つの異名が語られています。また第一話では平次の投げるものが一寸違います。

 さらに後者には、胡堂の、私は平次に投げ銭を飛ばさせて法の無可有郷をつくっているのだ、ということばを体現した物語が多く収録されています。

 まだ屠蘇気分のぬけない正月の読書には、時代を超えて読み継がれる平次と八五郎の活躍がふさわしいといえましょう。

新潮社 週刊新潮
2020年1月16日迎春増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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