ラブコメなしでは生きられない――『境内ではお静かに 七夕祭りの事件帖』著者新刊エッセイ 天祢涼
エッセイ
『境内ではお静かに 七夕祭りの事件帖』
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ラブコメなしでは生きられない
[レビュアー] 天祢涼(作家)
本作は『境内ではお静かに 縁結び神社の事件帖』の続編である。信心ゼロの雑用係・壮馬(そうま)と、「参拝者に愛嬌を振り撒くのは巫女の務め」と信じるクールビューティーな巫女・雫(しずく)のコンビが神社に持ち込まれる事件やトラブルを解決していく連作短編。たくさんの応援のおかげで、二作目を書くことができた。
一作目はミステリーとしても評価いただいたが、作者としては壮馬と雫のいちゃいちゃ(?)が主眼だと思っている。このシリーズはあくまで「ラブコメ」なのだ。
なお、作者は他社で「社会派」と呼ばれるシリアスなミステリーも書いている。この路線で書いた『希望が死んだ夜に』という小説は、光栄にもたくさんの書店員さんに支持してもらい、昨年の本屋大賞発掘部門で最多票を獲得した。「君はシリアス路線の方がおもしろいから、それ一本に絞った方がいい」と言われることもある。
私の場合、この言葉に従ったら確実に小説を書けなくなる。
シリアス路線の小説は、どうしても人間の残酷さや醜さといった闇の面に筆を割きがちだ。そうしたものだけを延々と書いていては「人間の悪いところ」しか見られなくなり、小説の内容がどんどん平板になっていくことだろう(繰り返すが「私の場合」である)。
対してラブコメ路線の小説は、人間のおかしさや楽しさといった光の面を描くことができる。「人間のいいところ」という、ともすれば忘れがちなことを思い出させてくれる。
つまり私にとって、シリアスとラブコメは「人間」を多面的に見るために、どちらも必要不可欠なのだ。
……などと尤(もつと)もらしい御託を並べておいて恐縮だが、単純に「壮馬と雫を書くのは楽しいから書き続けたい!」という気持ちが強い。なんとか四作目までは書きたい(構想は六作目まである)。一作目に続き応援いただければうれしい。