そんなこともできないのか、作者のくせに!
[レビュアー] 天祢涼(作家)
本作は、幼なじみが殺された事件を解決しようとする女子大生と、そうはさせじとする犯人の攻防を描いた倒叙形式のミステリーである(少なくとも書いた本人はそう思っている)。探偵役は早々に犯人に目星をつけるが、幼なじみが殺された理由はまるで見当がつかない。「事件はなぜ起こったのか?」が謎解きの焦点になる。
私は自分が書く登場人物のうち、犯人(ここでは殺人犯とする)にはあまり感情移入しないタイプである。神社を舞台にしたミステリーを書いているときは「神職として生きるのもありかも」と迷ってしまうくらい雰囲気に流されやすいので、犯人に感情移入したら事件を起こす……は大袈裟にしても、人様に本気で殺意を抱きかねない。ゆえに犯人を書くときは、無意識のうちに距離を置いているのだと思う。
しかし本作の犯人にかぎっては、「ありえたかもしれないし、この先ありえるかもしれない自分」を思い浮かべて書いた。
当初は違ったが、執筆が終盤に差しかかったところで、犯人から自身の設定についてだめ出しをされたのだ。
―自分が殺人に走らざるをえなかった経緯について、もっと真剣に考えてほしい。そんなこともできないのか、作者のくせに!
この声が聞こえてから、犯人の立場になるため「ありえたかもしれない自分」「この先ありえるかもしれない自分」をいくつも思い描き、それをもとに設定を大幅に変更。以降は犯人に感情移入するどころか一体化し、普段の三倍近い速度で一気に最後まで書き上げた。独りよがりになったのではという懸念もあったが、発売前に読んだ人からは犯人に共感する声を多数いただいている(殺人という行為に共感する声はありません、念のため)。
果たして、あなたはどう思うだろうか? ぜひ本作を読んで、確かめていただきたい。