詩人で小説家 印税を後進にと設立 高見順賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

切抜帳

『切抜帳』

著者
江代充 [著]
出版社
思潮社
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784783736844
発売日
2019/10/15
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

詩人で小説家 印税を後進にと設立 高見順賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 詩に与えられる賞というと、新人を対象にしたH氏賞と中原中也賞がよく知られています。皆さんもご想像がつくでしょうが、詩の原稿料だけで生活するのは至難の業です。なので、こうした賞は、小説を対象にしたそれよりも受賞者にとって切実なものといえましょう。実際、今回紹介する一九七〇年から始まった高見順賞は、詩人で小説家である同氏の印税を詩人のために使ってほしいという遺志を、妻の秋子さんが継いだことから生まれています。

 公益財団法人「高見順文学振興会」によって運営されており、選考対象となるのは毎年十二月一日から翌年十一月三十日までに刊行された詩集で、正賞と副賞五十万円ならびに記念品を贈呈。二〇一九年度の選考委員は、高橋睦郎、小池昌代、伊藤比呂美、松浦寿輝、佐々木幹郎の五氏です。

 吉増剛造『黄金詩篇』、吉原幸子『オンディーヌ』『昼顔』、飯島耕一『ゴヤのファースト・ネームは』、渋沢孝輔『廻廊』、入沢康夫『死者たちの群がる風景』、天沢退二郎『〈地獄〉にて』、岡田隆彦『時に岸なし』、高橋睦郎『兎の庭』、松浦寿輝『冬の本』、井坂洋子『地上がまんべんなく明るんで』、荒川洋治『渡世』、小池昌代『もっとも官能的な部屋』、鈴木志郎康『胡桃ポインタ』、藤井貞和『ことばのつえ、ことばのつえ』、伊藤比呂美『河原荒草』、稲川方人『聖―歌章』、川上未映子『水瓶』などなど歴代受賞作は、詩に疎いトヨザキの本棚にすら、かなりの割合で並んでいる名作揃いです。

 第四十九回までの受賞者は全六十一名(うち、第六回の受賞者・谷川俊太郎は、選考委員退任後に選ばれたため、公正さを疑われたくないと辞退)で、そのうち女性は十六名。この一月に決定した第五十回の受賞作は、江代充の第七詩集にあたる『切抜帳』です。一九五二年生まれの江代さんは、筑波大学附属聴覚特別支援学校の教諭をしながら、九五年、粕谷栄市、高貝弘也、法橋太郎と「幽明」を創刊。十四年ぶりに出した詩集で、高見順賞に輝きました。不勉強で江代さんの詩に親しんできませんでしたが、不肖トヨザキ、これを良い機会に読ませていただきます。

新潮社 週刊新潮
2020年3月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク