旧石器時代の冒険航海を自ら再現 人類史の謎に挑んだ体当たりルポ

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

サピエンス日本上陸 3万年前の大航海

『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』

著者
海部 陽介 [著]
出版社
講談社
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784065185544
発売日
2020/02/13
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

旧石器時代の冒険航海を自ら再現 人類史の謎に挑んだ体当たりルポ

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 日本列島の最初の住民はどこから来たのか。アフリカ起源のホモ・サピエンスが世界に広がって、日本に到達したのが約3万8千年前。渡来ルートは北海道、対馬、沖縄の3通りが考えられるが、津軽海峡や対馬海峡は当時も海だった。つまり、航海がどうしても必要だった。

 しかも、沖縄ルートには、目指すべき島が視認できない難所もある。繁殖したということは、複数の男女が舟に乗り込んだはず。少数精鋭による冒険ではなく、普通の人々による船出だったと推察できる。

 旧石器時代の人々はどうやって成功させたのか。なにより気になるのは「なぜ?」という部分だ。誰がどう考えたって危な過ぎる。自分ならとても漕ぎ出せない。無理っす。

 祖先の行動を解明すべく、太古の航海を再現してみるという気宇壮大な実験を行った国立科学博物館の研究者が、その内容を詳述したルポルタージュが本書。人類史の解説に始まって、冒険的な航海の試行錯誤、締めくくりの論考に至るまで、全編が知的刺激にあふれている。

 草束舟や竹筏舟の検証を経て、丸木舟で台湾~与那国島の航海に挑むのだが、当時の石斧を再現して巨木を伐採してみる、といった検証も忘れない。実際どんな舟だったかは確認できないし、旧石器人の思考も仮説に過ぎない。でも、緻密な時代考証と得難い体験から描き出される祖先の姿は、リアルに感じられる。

〈彼らは、“海に立ち向かった挑戦者”だと言っていいのだろうか。私はイエスと答える〉

 どうして山に登るのか、そこに山があるからだ、という有名な問答がある。好奇心や探究心や冒険心は、私たちの資質の一部。ホモ・サピエンスとは〈やらなくてもいいことに情熱を注ぐ、不思議な存在〉なのだと著者は言う。

 急に旅に出たくなったりするアナタ、その衝動は海へ漕ぎ出した旧石器人から受け継いだ血のせいかも。

新潮社 週刊新潮
2020年4月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加