主人公は葛飾北斎の風景版画――『哄(わら)う北斎』著者新刊エッセイ 望月諒子

エッセイ

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哄う北斎

『哄う北斎』

著者
望月諒子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334913571
発売日
2020/07/18
価格
2,035円(税込)

書籍情報:openBD

主人公は葛飾北斎の風景版画

[レビュアー] 望月諒子(作家)

 本作は、大絵画展シリーズ第三弾になります。第一作がゴッホ。第二作がフェルメールとみせかけたブリューゲル。「さて三作目は」と編集の方と相談したのが、もう四年も前のことでした。「では北斎(ほくさい)で」と言ったものの、書く自信はありません。というのも日本の古美術の知識がまるっきりなかったんです。中に新潮社のお仕事を挟んでいたので、ちょっと先になる。頃合いをみて別の作家をするっと言い出してみよう、など、いい加減なことを考えていたわけです。ところがそのままことは進んでしまったのです(汗)。

 天下の北斎相手に何が書けるだろうか。にわかファンからコアなファンまでざくざくいるわけで。世界で一番よく知られている日本人でもある。下手なことは書けない(汗汗)。

 北斎を書くから北斎だけ知っておけばいいというものでもなくて、そこは土台になる物すべて、まるまる学習しないといけない。なんでこんなことを始めたのだろうと四苦八苦した二年間でした。ですから、仕上がったときには、「やればやれるものだなぁ」と、妙に感心してしまいました。

 コンゲーム小説ですから、大きなお金が動いて、だます側とだまされる側がいるわけですが、とにかく主人公は葛飾(かつしか)北斎の風景版画です。魑魅魍魎(ちみもうりよう)が跋扈(ばつこ)する日本古画界を相手に、クリムトの盗難絵画をダシにして、思惑と思惑がぶつかりながら、ああでもない、こうでもないと物語は突き進んでいきます。実際、フェノロサにはいろんな評判があり、本作のようなこともないとは言えない。アリよりのナシか、ナシよりのアリか。そこはアリよりのアリということで(著者願望)。

 最後はお決まりのアクションと、まったりとした結末。

 と思いきや。かのクリムトの盗難絵画が、作品がすっかり仕上がっていた去年の年末に発見されたのです。こういうこともあるのですね。小説家泣かせはやめて下さいね。

 あれやこれやありましたが、無事、ぎっちり詰まったコン小説が出来上がりました。お楽しみいただければ幸いです。

光文社 小説宝石
2020年8・9月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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