役者の業の深さを浮き彫りにしつつ“異形のホームズ&ワトソン”が挑む謎

レビュー

3
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化け者心中

『化け者心中』

著者
蝉谷 めぐ実 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041099858
発売日
2020/10/30
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

役者の業の深さを浮き彫りにしつつ“異形のホームズ&ワトソン”が挑む謎

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 江戸時代の音声記録があるのかどうか知らないが、それをベースに小説を書いたとしたらこんなふうではなかったか。幕末近い文政期を背景に描かれた本書は文体からして並みの新人賞ものとはモノが違う第一一回小説野性時代新人賞受賞作だ。

 日本橋・通油(とおりあぶら)町で母と二人、鳥屋を営む藤九郎は金糸雀(カナリア)が縁でかつて当代一の女形とうたわれた田村魚之助(ととのすけ)の家に出入りするようになる。魚之助は三年前贔屓の客に足を切られ両足の膝から下を失っていたが、口は達者。今も日頃から女装で暮らしており、艶やかななりで藤九郎を信天翁(しんてんおう)(アホウドリ)呼ばわりする。

 九月某日、魚之助に呼び出された藤九郎は、女子にうぶなことをいつものようにやり込められた後、芝居小屋に呼ばれたという彼をおぶって中村座まで運ぶことに。待っていたのは座元・中村勘三郎。その話によると、五日前の夜、次の秋芝居の本の前読みのため役者衆を小屋に集めたのだが、作者・松島五牛の読み上げが佳境に差しかかったところで突然何かが転げ落ちる音がしたかと思うと蝋燭が消え、「ぱきり、ぽきり、がじごじ、ちゅるちゅるり」と不気味な音が。転がり落ちたのは人の頭。人一人が鬼に食い殺された――はずだったが、六人の役者衆は誰一人として欠けていなかった。

 鬼が誰かと入れ替わっていると見た勘三郎は、お上には内緒でそれが誰かを魚之助に突き止めてほしいというのだ。藤九郎の反対も聞かず、魚之助は快諾するが……というわけで、異形のホームズ&ワトソンが真相究明に乗り出す。

 その手法は役者一人ひとりに正面から当たっていくだけだが、天才・尾山雛五郎を始めとする役者衆はクセモノばかり。一本気な藤九郎の眼力は当てにならないが、魚之助は自らの複雑な本性をさらけ出しつつ、皆の化けの皮をはいでいく。役者の業の深さをスリリングに浮き彫りにする芸道小説の白眉でもある。

新潮社 週刊新潮
2020年11月26日初霜月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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