気鋭の女監督が時空を超えた映像にシェイクスピア史上最も凄惨な物語

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気鋭の女監督が時空を超えた映像にシェイクスピア史上最も凄惨な物語

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 シェイクスピアの戯曲中、最も衝撃的な作品と言われる「タイタス・アンドロニカス」。「ハムレット」も復讐劇だが、これはその比ではない。ローマの武将タイタスに息子を殺されたゴート人の女王タモーラの嘆きと憎しみが生んだ、想像を絶する悪意に満ちた報復。怒りと絶望と狂気の中、タイタスのタモーラに対する復讐が始まる。登場人物のほとんどが殺されてしまう凄惨な物語なのだ。

 映画『タイタス』の制作・監督・脚本はジュリー・テイモア。大ヒットミュージカル「ライオン・キング」の斬新な演出で世界をあっと言わせた天才だ。彼女の初監督作品だが、その唯一無二の才能は映画でも遺憾なく発揮されている。

 ローマ時代の衣裳の人物の隣にナチス親衛隊のような軍服姿やスーツ姿の男性が。馬や馬車に乗った兵士もいれば、バイクやオープンカーも登場。古代ローマと現代が混在する、時空を超えた映像イメージは、現代アートのようにも見える。だが、そんな中で語られるのはシェイクスピア戯曲そのままの格調高い台詞。場面転換もほぼ原作通りの正真正銘のシェイクスピア劇なのだ。

 映画や舞台、これまで多くのシェイクスピア作品を観てきた。『ウエスト・サイド物語』のように「ロミオとジュリエット」を下敷きに設定を大胆に変えたものは別として、役者たちの肩に常よりは力が入っているなとか、「私はシェイクスピア役者なんだぞ」という彼らの心の中のドヤ顔(笑)などを感じてしまう私……。

 シェイクスピア劇を演じることは役者にとってはきっと特別なものなのだろう。だが、タイタス役のアンソニー・ホプキンスには「演じる」という表現はもはや無意味だ。そこにいるのはタイタス・アンドロニカス本人なのだから。多くの名優が輩出した英国の王立演劇学校を取材した番組を見たことがある。彼は在学当時から別格で天才だったと校長が言っていた。

 偉大な作家の戯曲が、天才演出家と天才役者によってどう料理されたのか。その映像体験は刺激に満ちている。最後に出てくるタイタスが作った料理もかなり刺激的ですから、要注意!

新潮社 週刊新潮
2020年11月26日初霜月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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