<東北の本棚>雑学知識をユーモアに

レビュー

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うたの動物記

『うたの動物記』

著者
小池, 光, 1947-
出版社
朝日新聞出版
ISBN
9784022620323
価格
814円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>雑学知識をユーモアに

[レビュアー] 河北新報

 動物は見ているだけで楽しい。形も動きもユニーク。言葉を話さないから何を考えているのか分からない。だからこちらで勝手に想像する。気がつけば、動物たちは人間界の文学を闊歩(かっぽ)している。本書は動物が登場する短歌、俳句、詩を味わう105編のエッセー集だ。
 動物を1種ずつ取り上げた見開きページの読み切り。前段でその動物の知られざる生態や渡来の歴史、名前の由来などがつづられる。
 この前段だけ読んでも面白い。たとえばカバ。「河馬」と書くが、あの短足でなぜ馬なのか。実は俊足で時速40キロにも達し、ウサイン・ボルト選手より速いとか。ナマケモノに関しては本来は動くから「動物」なのに、動かないのだから「逆説的動物」と断じる。幅広い雑学知識と、とぼけた風味のユーモアに引き込まれる。
 後段はその動物を題材にした作品を紹介、鑑賞する。松尾芭蕉の蛙(かわず)と蝉(せみ)はもちろん、西行の鳩(はと)、夏目漱石と森鴎外の鹿、寺山修司の蠅(はえ)、若山牧水の蚊、塚本邦雄のペンギンと、生き物に託した作者の心の風景を読み解く。
 上山市出身の斎藤茂吉は「近代短歌の金字塔」である歌集「赤光」の連作「死にたまふ母」で数多くの動植物を詠んだ。<ひとり来て蚕のへやに立ちたれば我が寂しさは極まりにけり>。それらは「母への限りない挽歌(ばんか)であるとともに大いなる自然賛歌でもある」という。
 一方で、病院長で医学博士の科学者でありながら、茂吉は内心、民間信仰にも傾倒していた。大好物のうなぎや鯉(こい)を食した際の感慨を幾度となく歌にした。茂吉研究の第一人者である著者による解説は、まさに爆笑ものだ。
 著者は宮城県柴田町出身の歌人。2020年3月まで仙台文学館長を務めた。日本経済新聞に2年間にわたって連載された本作で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した。(ぐ)
   ◇
 朝日新聞出版03(5540)7793=814円。

河北新報
2021年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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