罪人たちの救済の物語 『もろびとの空 三木城合戦記』天野純希

レビュー

4
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もろびとの空 三木城合戦記

『もろびとの空 三木城合戦記』

著者
天野 純希 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087717402
発売日
2021/01/26
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

罪人たちの救済の物語

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 本書の中ほどで、元別所(べっしょ)家剣術指南役で、今は百姓をしている室田弥四郎(むろたやしろう)の娘・加代(かよ)が、別所家家臣で“死に損ない”の異名を持つ蔭山伊織(かげやまいおり)に「一つだけ、聞いてもええですか?」「これを飲んで、お肉を食べても、うちは人でいられますか?」と尋ねるシーンがある。

 伊織はこれに対して「俺も食った。それが罪だと言うのなら、それでも構わん。生きていれば、そのぶん罪は増えていく。それも、人というものだろう」と返す。

 そして少女はこう言う。「あなたが背負った罪を、うちも背負います」と。

 この一巻が、秀吉(ひでよし)の三木城(みきじょう)の干殺しを描いたものだと話せば、彼女が食したものが何であるかは自(おの)ずと知れよう。

 これまでこの題材を長篇で扱ったものはなかった。短篇で書かれたものは、この干殺しの残忍性ばかりが強調されていたように思われる。誤解を承知で言えば、作者はむしろ、この状況を悠々たる筆致で描いている。そこから生まれるのは、救済のイメージである。それは題名の“もろびと”から生じる宗教的雰囲気と相まって、禁忌(きんき)を犯したものたちへ、救いの手を差しのべている。

 なぜかと言えば、彼らは、ある日突然平和な日常を奪われた者たちであり、令和を生きる私達、コロナ禍で、不条理な喪失を強(し)いられた者たちと重なるからである。

 この痛ましい籠城戦の中で、例えば、城主別所長治(ながはる)の叔父・吉親(よしちか)は、徹底抗戦を主張して、長治を幽閉(ゆうへい)する。が彼は、悪人ではない。それも哀れな人間の行為なのだ。

 作者の人間に対する寛容な視点が、脈々と生きている傑作と言えよう。

光文社 小説宝石
2021年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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