人間関係の中に潜む理不尽さを描く時代ミステリ でも優しい気持ちがじんわりと溢れてきて心が温かくなる物語

レビュー

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寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖

『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』

著者
倉本 由布 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784150314361
発売日
2020/06/10
価格
770円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森 歴史・時代]『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』倉本由布

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 昨年から続くコロナ禍において、本を購入する際EC書店を使うことが増え、本屋から足が遠のいてしまっていた。先日、久しぶりに本屋に立ち寄り文庫売場を覗いたら見たことがない本がたくさん並んでおり、思わずまとめ買いしてしまった。

 倉本由布『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』(早川書房)はそのうちの一冊である。

 約一年前に出版された作品だが、たまたま続編となる『風待ちのふたり』が発売され、併売という形で平積みされているタイミングで本屋に立ち寄ったから出合うことができた物語だった。

 初読みの著者だったが、「薫は岡っ引き。芽衣は下っ引き。ふたりの絆で江戸の謎解く」と添えられていたコメントに惹かれ手に取ったところ、テンポの良さと不思議な世界観に引き込まれ一気に読み終えてしまった。

 本書は、ともに十五歳の蔵前の札差・森野屋の娘・薫と、北町奉行所の定町廻り同心の娘・芽衣という、身分も性格も違う二人の女性が謎を解き明かす時代ミステリ連作集である。

 薫は、北町奉行所の定町廻り同心見習いの内藤三四郎の岡っ引きで、芽衣は薫の下っ引きなのだが、三四郎は芽衣の兄である。札差の娘が岡っ引きで、同心の娘がその手下として助けるという設定からして面白い。

 神田須田町の番屋に顔を出した薫と赤ん坊を抱いた芽衣のやり取りから物語がはじまる。その赤ん坊は、振袖に包まれて小間物売りの家の前に置き去りにされていたのを芽衣が見つけたのだという。

 その一方で、浅草御蔵に立ち並ぶ米蔵の間で、顔がめちゃくちゃに潰され簡単に身元が分からないような状態の男の骸が転がっているのが見つかった。そんな中、札差・和泉屋の誰かが神隠しにあったという噂話を聞きつけた薫が動き出す。

 十五歳の娘と思えない落ち着きと洞察力を持ち岡っ引き稼業に勤しむ薫と、一途に薫を慕う芽衣。本書には、二人の絆で事件に挑む四篇が収録されている。

 それぞれ夫婦、友、兄弟、親子という関係性の中に潜んでいる理不尽さが描かれているのだが、いずれの作品も読後に優しい気持ちがじんわりと溢れてきて心が温かくなる物語だった。

 また、友情を越えた薫と芽衣の繋がりがもたらす不思議な世界観も読みどころの一つだろう。ラストの一篇で明かされる花火の秘密に、二人の絆の深さを感じてほしい。

 本屋に足を運ばなければ、このような素敵な作品に出合うことはなかった。

 よし、続編を買いに本屋に行こう。

新潮社 小説新潮
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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