台湾・香港怪談の魁として 『おはしさま 連鎖する怪談』著者新刊エッセイ 玉田誠(翻訳)

エッセイ

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おはしさま 連鎖する怪談

『おはしさま 連鎖する怪談』

著者
三津田信三 [著]/薛西斯 [著]/夜透紫 [著]/瀟湘神 [著]/陳浩基 [著]/玉田誠 [訳]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914264
発売日
2021/09/24
価格
2,530円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

台湾・香港怪談の魁として 玉田誠(翻訳)

[レビュアー] 玉田誠(翻訳家)

 映画『返校 言葉が消えた日』を観た。二〇一九年の台湾で大ヒットしたダーク・ホラーであるこの作品は、あるもののフーダニットを巡るミステリでもある。本作も怪談であり、仕掛けを凝らしたミステリであるという点で、この映画と相通じるものがあるように感じた。

 本作はサブタイトルに「連鎖する怪談」とある通り、怪談小説として手に取られる読者が多いかと思う。三津田信三(みつだしんぞう)の手になる第一章「おはしさま」の放つおそるべき呪力に導かれるまま、台湾・香港四人の作家が仕上げた各章には、怪異とどう対峙し、ミステリの技巧によってそれをどのような物語に昇華させるか―という点において、各作家の強い個性が見て取れる。特に薛西斯(クセルクセス)「珊瑚の骨」はその語りと仕掛けから訳出に苦労した一編で、実は物語が終わったあとも、はっきりと語られないままの怪異が残されている。だが今回は読者に怪異の正体を探ってもらうべく、敢えて詳しい説明は加えずにそのままとした。なお、本編に登場する道士・海鱗子(ハイリンズ)を主人公としたスピンオフ・コミック『不可知論偵探』(原作・薛西斯、作画・鸚鵡洲(インウージヨウ))のなかで、くだんの怪異について語られているのだが、この作品についてもまた機会があれば紹介したい。

 オーソドックスな毒殺事件に見えながら、おそるべき怪異が最後の一撃となって読者を襲う夜透紫(やとうし)「呪網(ザウモン)の魚」、様々な語りを交錯させた耽美な筆致によって、幻想と悪夢と現実のあわいに本格ミステリの仕掛けを凝らした瀟湘神(シヤオシヤンシエン)「鰐(わに)の夢」。それに続く「魯魚亥豕(ろぎよがいし)」は、ありあまる才能にまかせてミステリからホラー、そしてSFと何でもこなす陳浩基(ちんこうき)の豪腕ぶりに注目したい。軽妙な筆運びで「鰐の夢」の美しき幕引きを一転させ、「おはしさま」の怪談世界はどこに着地したのか。その唖然とするしかない結末は、実際に本作を手に取って確かめていただきたいと思う。

光文社 小説宝石
2021年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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